テルミンを演奏するテルミン博士(youtubeより)
2020年の今年は、
電子楽器テルミンの誕生から100年になる。テルミンは、1920年にロシアの発明家レフ・テルミンが発明した世界最古の電子楽器だ。この楽器を、手を触れずに演奏する姿を、映像や写真で見たことがある人も多いと思う(
Mandarin Electron)。
発明者の
レフ・テルミンによる演奏や、同時代に活躍して普及に貢献した
クララ・ロックモアの演奏の映像も残っている。こうした映像が残っているのは、新しめの楽器の特権だろう。
電子楽器テルミンは、特徴的な外見をしている。垂直の金属棒「ピッチアンテナ」と、水平の金属部品「ボリュームアンテナ」が伸びており、これらのアンテナに手を近づけたり遠ざけたりすることで音をコントロールする。
仕組みとしては、演奏者とアンテナとの間に蓄えられる静電容量の変化を利用する。静電容量の変化は身近にも利用されていて、
スマートフォンのタッチパネルなどで使われている(
EIZO株式会社)。
シンセサイザーで知られる
Moog Music では、テルミン100周年を記念して、特設ページを設けている(
Moog)。
今回は、この電子楽器テルミンを発明した、レフ・テルミンについて焦点を当てたいと思う。
テルミンは1896年にロシアに生まれた。彼は幼い頃から2つの能力を発揮していた。1つは音楽、もう1つは物理学だ。彼はピアノやチェロを弾く才能を持っていた。また、研究開発の才能もあり、両親は彼のために、家に研究室を作るほどだった。そうした能力を有していたテルミンは、音楽院と、大学の物理数学部に同時に入学した(
ロシア・ビヨンド)。
彼は、1917年に始まったロシア内戦で翻弄されたあと、1920年にヨッフェ物理学技術研究所に参加して実験室長になる。その時期の研究から電子楽器テルミンは生まれた(
Leon Theremin (Lev Termen))。彼はこの時期、テルミン以外にも、テレビの原型になるような装置も開発している。
テルミンは演奏の国際ツアーをおこない、1927年にアメリカに到着する。その後、ニューヨークで研究所を作った。1932年にはカーネギーホールで電子オーケストラの演奏もおこなった。彼は、多くの科学者や音楽家と交流した。アルバート・アインシュタインも、そうした親交があった1人だった。
彼は米国時代に、
静電容量ベースの警報システムや金属探知機を開発している。また、作曲家で音楽理論家のヘンリー・カウエルとともに、世界初の電子ドラムマシンと言われる
Rhythmicon も作っている(
120 Years of Electronic Music)。科学者で音楽家で発明家。アメリカでそうした生活をおこなっていたテルミンは、1938年に突如、故郷であるソビエト連邦に戻り、西側諸国から消える。