電子楽器テルミン誕生100周年。音楽と物理学、そしてスパイガジェット開発と先進的な発明を続けた天才の生涯

スパイガジェットの開発

 ソビエト連邦に戻ったテルミンは、翌1989年に逮捕されて懲役8年の判決を受ける。彼は1940年に研究所に移送される。彼はその場所で、他の科学者や技師たちとともに、様々な研究開発をおこなった。その中でも、2つのよく知られたスパイガジェットがある。  1つは、The Thing と呼ばれる盗聴装置だ。この盗聴装置は、the Great Seal bug としても知られている(Crypto MuseumHackaday)。  1945年、ソ連から米国大使に送られた、米国の国章の手彫りのレプリカに、その盗聴装置は仕込まれていた。電源がなく、ワイヤーもない。そのため当時の常識では発見が困難な盗聴装置だった。  現代の私たちは、非接触で無線によりデータの読み取りや書き換えをおこなえるRFIDタグなどを知っている。しかし当時は、完全に盲点だった。特定の周波数の無線が送られた時だけ動作して、音を拾い、送信する。そうした概念を人々が持っていなかったために検出が極めて難しかった。  もう1つは、Buran と呼ばれる盗聴装置だ。マイクロ波ビームを使用してガラスの振動を検出して室内の音を聞くシステムだ。ガラス窓の振動を利用して盗聴する方法は、現在ではよく知られている。しかし、当時はそうした方法を人々は知らず、非常に斬新だった(Andrey Smirnov)。  テルミンは、行く先々で先進的な発明をし続けた希有な人物だった。

1993年に他界したテルミン博士

 晩年のテルミンについても書こう。1947年にテルミンは解放される。そして、1967年にアメリカのジャーナリストに生存が確認される。1993年にはドキュメンタリー映画も作られた(Yahoo!映画)。そして、1993年にモスクワで他界した。そのとき、レフ・テルミンは97歳だった。  テルミンと言えば電子楽器だが、セキュリティについて興味がある人にとっては、スパイガジェットの話も有名だ。電子楽器テルミンの誕生から100年ということで、レフ・テルミンの生涯について短くたどってみた。 <文/柳井政和>
やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。2019年12月に Nintendo Switch で、個人で開発した『Little Bit War(リトルビットウォー)』を出した。2021年2月には、SBクリエイティブから『JavaScript[完全]入門』、4月にはエムディエヌコーポレーションから『プロフェッショナルWebプログラミング JavaScript』が出版された。
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