法輪功系メディア「
大紀元(Epoch Times)」も、大統領選をめぐってバイデン氏の不正等や中国との関わりを書き立て、日本語記事としても配信している。
法輪功は、1992年に李洪志氏が中国国内で創始した気功集団。中国当局から弾圧され、李はすでに移住している。大枠では気功集団とは言え、仏教等の影響受けたと思われる道徳の学習や実践も含んでおり、一般的に宗教団体と捉えられている。
法輪功の主張の細部がどこまで事実であるかは置くとしても、
中国国内で弾圧され自由や人権を侵害されてきた集団であることは間違いないだろう。しかし一方で、法輪功は「大紀元」その他のメディアや団体名を名乗り、
法輪功であることを明示せずに宣伝活動を行う。相手の話を聞かず、押し付けがましく自分たちの主張ばかりぶつけてくる。ゆえに、カルトと呼ぶかどうかはともかくとして日本でも多くの人々から嫌われている。
私自身、様々な場面で法輪功に出くわしてきた。チベット問題やウイグル問題等に関するシンポジウムや集会、中国の人権問題に関する写真展などでは、法輪功は主催者の許可を取らずゲリラ的に会場に入り込んでビラを配布するなどしており、別テーマで中国の人権問題に取り組む人々から煙たがられていた。
つい先日は、日本学術会議問題に抗議して首相官邸前です割り込みを続けている女性を取材している最中に、通りかかった別の女性が片言の日本語で話しかけてきた。
「反中共ですか?」
「はあ? 日本学術会議の問題で座り込んでるんですけど。中共なんか関係ない」
話しかけてきたのは、法輪功信者だ。「大紀元」を手渡してきて、「学術会議は中国の軍事研究に協力してるんですよ!」と言い始めた。
甘利明・自民党税制調査会長の発言に端を発してネットで拡散された、これまたフェイクニュースだ。相手の立場や話に一切関心を持たず、一方的に主張を押し付けてくる。
私の知人で、目付きの悪い(態度も悪いが)弁護士がいる。彼は海外で、
法輪功の集団から勝手に「中国の公安(警察)」と勝手に決めつけられトイレで取り囲まれ詰問されたという。
ある時、また別の知人が、中国の舞踊等のパフォーマンスを観に行くとウキウキしながら出かけていった。しかし終わった後、「宗教だった……」とがっかりしていた。「神韻芸術団」という団体で、公式サイトを見れば法輪功であることは一目瞭然だが、ネット広告などでは全く明示されていない。
私自身、かなり昔に法輪功の演劇の舞台を見に行ったことがあるが、農民をいじめる共産党幹部が神の怒りに触れ雷に打たれて死に、虐げられた人々がヒャッハ~!とばかりに大はしゃぎするという逆プロパガンダ演劇だった。
中国共産党は情報を統制し人々の自由や権利を奪い、それを正当化するプロパガンダに力を入れる。一方で、それを非難する法輪功も、芸術を用いながら情緒的に中国共産党に対する人々の嫌悪感を煽るプロパガンダの手法をとる。しかも、法輪功であることを明示せずに客を集めた舞台で。
この法輪功的な(むしろ中国共産党的な)カルチャーは、法輪功系メディアの活動において同様だ。以前、アメリカの新聞記者と雑談していた際、法輪功の話題になった。
「彼らは
Sneaky(卑劣)だ」
その記者はそう言った。法輪功であることを示さずに、メディアの取材と称して近づいてきて、他人の活動や発言を中国批判のための記事に利用するからだという。
もう8年も前になるが、自由報道協会という記者会見主催団体(現在のNHKから国民を守る党幹事長の上杉隆が当時代表)が、
大紀元から持ち込まれた「中国の臓器移植事件について」というタイトルの記者会見を開催した。事前告知では法輪功との関係は一切示されなかった。それが批判を浴びたからか、自由報道協会は当日の記者会見の場で司会者が「法輪功の支援団体である大紀元からの要請により開催」した会見であることをアナウンスした。
大紀元と法輪功は形式的には別団体かもしれないが、実質的にイコールだ。日本においても、街頭などで大紀元の配布活動をしている人々は法輪功信者である。以前、日本の大紀元で編集長していた人物(故人)と私は何度か会って話をしているが、彼も法輪功信者だった。自由報道協会による「法輪功の支援団体である大紀元」などという言い回しもまた欺瞞である。
このように、団体の素性や背景を明示しない法輪功の情報発信には、しばしば
うかつな人物や団体が加担してしまう。つい最近も、産経新聞記者を名乗る人物から取材申し入れを受けた日本の研究者が、取材を断ったのに、その記者によって大紀元で「接触できた」などとして掲載されたという問題が指摘されている。〈参照:
産経新聞記者によって中国”タブーメディア”に実名を晒された怖い話|President online〉
そしてつい最近、一時的に法輪功に関わっていたという人から、
法輪功にはLGBT蔑視の教義があると聞かされた。実際にテキストを見せてもらったところ、こう書かれていた。
〈今の人は利益に目がくらむばかりではなく、一部の人は悪事のかぎりを尽くし、お金のためならどんな悪事でもやりかねません。人を殺すとか、金で命を買うとか、同性愛、麻薬など何でもやります。人は良くないことをする時、徳を失っていきます〉
法輪功において同性愛は、殺人や麻薬と同列の「カネ目当ての悪事」なのである。これは『轉法輪 日本語版』の一節。著者は、法輪功の創始者・李洪志氏だ。
中国当局から深刻な人権侵害を受け、それを非難しつつ、一方で自らは他者の人権や尊厳などお構いなし。それが法輪功だ。