「そのうち、裏垢でセフレを作るようにもなりました。最初は会って幻滅されたらどうしよう、と思っていたけど、セックスだけが目的の男の人はみんな優しかった。何人もの男性と裏垢でワンナイトラブをしましたが、そのうち身体を求められることにも慣れて、いつの間にか以前よりも、人前で堂々と振る舞えるようになっていたんです。
自分に自信が持ててからは、どうしても若いうちに結婚がしたい、と考えて27歳からマッチングアプリ婚活を始めました。年収が低くなかったこともあったとは思いますが、半年ほどで婚約者を見つけることができて、29歳の時にはその人と結婚しました。その頃は両親ともほぼ絶縁状態になっていたので、二人だけで慎ましい結婚式をしました。嬉しかった。こんな私を認めてくれて、必要としてくれる人がいるだけで、もうこれ以上の幸せはないと心の底から思いました」
自己肯定感が低い人にとって、結婚という永遠の約束は、これ以上ないほどに本人の承認欲求を満たすものなのだろう。容姿に自信がなかった自分がここまで変わることができるなら、性的アピールで男性の気を惹くのも悪くなかったのかもしれない、と思ったのもつかの間。持田さんの幸せはあまり長く続かなかったという。
「しかし、結婚して一年ほど経つと、すぐに旦那とはセックスレスになってしまいました。10個歳上でもうすぐ40歳を迎える彼は、私ほど性欲が強くなく、30歳を迎える頃には、私たちの間に性行為はほとんどなくなってしまいました。
性行為で自信をつけてしまった私にとって、身体を求められないことはとてもつらいことでした。自分に魅力がなくなってしまったからなのでは、やっぱり私が太っているからなのでは、と自問自答を繰り返しては、また自分を責める日々。耐えかねた私は、また裏垢で知らない男性と不倫するようになってしまいました」
日本の夫婦の多くは、年齢とともに性行為から遠のいていく。女性が性行為で満たせる自己肯定感は、多くの場合仮初のものだ。加齢で体型が変わってしまったり、昔ほど求められなくなった時に、すぐにまた自己受容できなくなってしまう。
「性行為がなくても、旦那は優しい。でも、私に勃起してくれない旦那が、どうしても許せない。ダメだと分かっていても、不倫をやめることができません。私は仮初の自信の代わりに、性に対する倫理感を失ってしまった。ワンナイトラブに愛はないとわかっていても、やめられないんです」
彼女は取材中も堂々と話していた。自信がない人特有のおどおどした雰囲気はなく、人の目を見て話すことができる。彼女が性行為で得た自信や肯定感は、たしかに彼女の中にあるのかもしれない。しかし、その内実の伴わない自信が、彼女の中に「性のねじれ」を生んでしまった。
彼女が彼女自身を承認してあげない限り、彼女は異性からの「身体の承認」なしに、その自信を保つことができない。その原体験は、思春期に容姿に対する不当な評価を得たことから来ているのだろう。トラウマは、その人の人格形成に大きく関わる。結婚して、永遠に自分を認め、受け止めてくれる人と出会っても、彼女は幼い頃から抱える心の闇に、今も縛り付けられているのだ。
<取材・文/ミクニシオリ>
1992年生まれ・フリーライター。ファッション誌編集に携ったのち、2017年からライター・編集として独立。週刊誌やWEBメディアに恋愛考察記事を寄稿しながら、一般人取材も多く行うノンフィクションライター。ナイトワークや貧困に関する取材も多く行っている。自身のSNSでは恋愛・性愛に関するカウンセリングも行う。