コロナの「こわさ」を乗り越えて生命維持をしていくために、アートは必要不可欠

深い人間関係の守りがある場の中でこそ、「こわさ」を乗り越えて行くことができる

喜怒哀楽イメージ 人間は生きていてこそ、喜怒哀楽といった感情や情緒を感じながら生きていくことができます。人生には喜びや楽しみだけではなく、怒りや哀しみもあります。喜怒哀楽、いろいろな感情があり、成長していくためには自分のものとして統合してゆかねばなりません。  そして、あまりにも悲しく苦しい体験には圧倒されてしまうものです。深く傷つけられてしまうことはあっても、自分のものとして取り込んでいくことは難しいものです。ただ、否定的な感情体験が少ないと深みのある大人になりにくく、逆に傷が深い体験になりすぎると成長のプロセスが歪まされてしまいます。 人間関係の守りイメージ 生命の危機を感じるような「こわい」「おそろしい」危険な体験は、うまく守られた場の中で行われてこそ、はじめて自分のものになるのです。  わたしたちは、「こわさ」の感情を味わいつつ、深い人間関係の守りがある場の中で安心しながら自分のものへとしていくことができます。アートは、そうした「守り」を提供する方法としても存在しているのではないだろうかと思います。  未知のウイルスは確かに「こわい」ものですが、深い人間関係の守りがある場の中でこそ、わたしたちは乗り越えて行くことができるはずです。そうした社会基盤を同時に構築していくことも、今求められているのではないかと思います。 【いのちを芯にした あたらしいせかい 第8回】 <文・写真/稲葉俊郎>
いなばとしろう●1979年熊本生まれ。医師、医学博士、東京大学医学部付属病院循環器内科助教(2014~2020年)を経て、2020年4月より軽井沢病院総合診療科医長、信州大学社会基盤研究所特任准教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員、東北芸術工科大学客員教授を兼任(山形ビエンナーレ2020 芸術監督 就任)。在宅医療、山岳医療にも従事。未来の医療と社会の創発のため、あらゆる分野との接点を探る対話を積極的に行っている。著書に、『いのちを呼びさますもの』『いのちは のちの いのちへ ―新しい医療のかたち―』(ともにアノニマ・スタジオ)、『ころころするからだ』(春秋社)『からだとこころの健康学』(NHK出版)など。公式サイト
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