続いて紹介したいのはニューウェーブのシーンから登場し、インダストリアルやオルタナなどの影響を取り込みながら、いまだに欧米で絶大な人気を誇る
デペッシュ・モード、そして同じく電子音楽を下地に日本でもフェスなどで大活躍している
ナイン・インチ・ネイルズ(NIN)だ。
どちらもスタジアムやアリーナを埋めるビッグバンドだが、コロナショック下で行われた今回の授賞式では、残念ながらド派手なパフォーマンスは披露されず。
しかし、その影響力はリモートでも伝わるのがスゴいところ。デペッシュ・モードは女優の
シャーリーズ・セロンに紹介され、
アーケード・ファイアや
チャーチズといったアーティストから賛辞が寄せられた。
受賞スピーチでは、ヴォーカルの
デイヴ・ガーンが
デビッド・ボウイ、
イギー・ポップ&ザ・ストゥージズ、
ザ・クラッシュなどを影響源として取り上げていたが、そうした
世代を超えたアーティスト同士の繋がりが見られるのも、ロックの殿堂の面白いところだ。
いっぽう、電子音楽からの影響や、SM、ドラッグなどをテーマにしたサウンドという意味では、デペッシュ・モードと同系統とも言える
NIN。こちらは
イギー・ポップに紹介され、
セイント・ヴィンセントや
マイリー・サイラスなどから賛辞が送られた。
また、リーダーの
トレント・レズナーは『
ソーシャル・ネットワーク』などで映画音楽にも進出しており、
アカデミー賞も受賞している。重たい音楽が好きなロックファンから、より実験的なサウンドを好む人まで、その影響力は絶大だ。今回の殿堂入りに関しても、異論を挟むものはいないだろう。
そして、忘れてはならないのが今のシーンを築き上げてきた大ベテランたちの存在だ。
映画『
20世紀少年』で「
20センチュリー・ボーイ」がテーマ曲として使用されたことから、
T・レックスというバンド名は知らないけど、彼らの曲を聴いたことはあるという人も少なくないだろう。
日本では
デヴィッド・ボウイや
ロキシー・ミュージックとともに
グラムロックを代表する存在として知られているが、
ポップなメロディと
ハードなギターリフ、のちにブラック・ミュージックからの影響も色濃くなっていくが、そうした
グルーヴ感は、
ひとつのジャンルに留まるものではない。
クエンティン・タランティーノ監督の『
デス・プルーフ』でも楽曲が使われていたとおり、
本人たちのビジュアルが独創的であるだけでなく、その音もまた「画に合う」のかもしれない。
最後は数々のメンバーチェンジやサウンドの変化を経ながら、いまだにライブを続け、ここ日本にも定期的に来日している
ドゥービー・ブラザーズ。
イーグルスらとともに、
ウェストコースト・ロックの代表的存在としてアメリカを中心に絶大な人気を誇ってきた彼らは、
マイケル・マクドナルド加入時代には
AORにも接近。ハードロックとも言えるぐらいの
埃っぽい無骨な音から、
洗練されたセクシーなサウンドまで、
なんでもこなせることを証明してみせた。
時代によってメンバーや音楽性に変化はあったものの、その根底には
フォークや
カントリー、
ブルースといったいわゆる「
アメリカの音」が流れており、
そうした足場があるからこそ、これだけ長い間バンドを続けてこられたのかもしれない。また、
矢沢永吉とコラボするなど
日本との関係も深いので、彼らの殿堂入りを喜んでいる親父ファンは多いだろう。
さて、
大統領選とコロナショックの影響で、まるで話題にならなかったロックンロールの殿堂だが、ご覧いただいたとおり、今年の受賞者はいずれも大物ばかり。例年のように特別なパフォーマンスなどが観られなかったのは残念だが、殿堂入りを機に彼らの音楽を耳にする人たちも少なくないはずだ。
たとえ、ライブが行われず危機的状況にあったとしても、そうして
聴き継がれる限りロックンロールは死なないだろう。
<取材・文・訳/林 泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン