「正当な理由のない自己都合退職」にされないためには
雇用保険の基本手当は、離職理由によって、給付期間や金額に大きな差が出てくる。
とりわけ、解雇などの会社都合による退職ではなく、「正当な理由のない自己都合退職」とされてしまうと、仕事を辞めてから2か月間給付を受けらなくなってしまう。
そのため、基本手当受給の際に最も重要なのは、「正当な理由のない自己都合退職」と判定されないことである。
厚生労働省は、会社都合で退職した人(特定受給資格者)と正当な理由のある自己都合で退職した人(特定理由離職者)と正当な理由のない自己都合で退職した人(一般受給資格者)の3つに分類している。それぞれのカテゴリーに当てはまるのがどのような人なのか
厚生労働省のネット上の案内から詳しくみていこう。
特定受給資格者の範囲の一部(ハローワークインターネットサービスより)
特定理由離職者の範囲の一部(ハローワークインターネットサービスより)
特定受給資格者、すなわち会社都合退職と判定されるケースは思いのほか多い。解雇や倒産によって仕事を失った場合のみならず、労働契約を結んだときに示された労働条件と実際の労働条件が著しく異なった場合や、賃金が85%未満に低下した場合、超長時間労働が発生していた場合、ハラスメントを受けた場合、退職勧奨された場合、企業が法律違反をしている場合は会社都合退職となり、「特定受給資格者」となるのである。
例えば新型コロナウイルス禍で労働日数・労働時間数が大幅に減らされてしまい、それに応じて給与も減少したことを受けて退職する場合は、この会社都合退職に該当する可能性があるということである。
また介護離職や、結婚に伴う引っ越しで退職した人は、正当な理由のある自己都合退職とされ、給付制限期間は発生しない。会社から転勤を命じられたものの、それでは家族と別居することになるから退職するという場合も正当な自己都合退職になる。
しかし、これらのケースに当てはまるにもかかわらず、会社が離職票上では「自己都合退職」としてしまうことも多い。ハローワークは、受給する人本人が訴えない限り、離職票の記載を見て離職理由を判定するため、実態としては会社都合退職であるにもかかわらず、自己都合退職と判定され、給付制限期間が課せられてしまうことがある。
こうした事態を防ぐためにも、不安な人は労働組合に相談してみよう。
まず、労働組合は、会社が離職票にどのように記載するのか交渉することができる。実際にはハラスメントや労働時間の減少によって離職を強いられた場合でも、そうした事情が記載されずに自己都合退職と記載されてしまう場合も多い。実態の正確な記載を求めるのである。
すでに会社に「自己都合退職」にされてしまった、もしくは会社と交渉するのが嫌だという場合でも、ハローワークで交渉することができる。ハローワークの窓口で離職の経緯を説明し、会社都合で退職した「特定受給資格者」に当てはまると訴えるのだ。その際に必要な証拠の収集や、窓口での交渉などに労働組合が協力することができる。
雇用保険に加入していた時期を確認し、さらには離職の理由を「正当な理由のない自己都合退職」とされないようにする。この二つに気を付けて、雇用保険を利用してほしい。
最後に、雇用保険そのものの問題点についても触れておこう。
第1に、離職理由による給付差別は不合理だろう。離職理由によって、給付制限期間のみならず、給付期間、給付金額など細かく差別がされる。
しかし実態としては、会社都合なのか自己都合退職なのか判断が難しいケースは多い。新型コロナウイルス禍で労働条件が急変している場合、こうした離職理由による給付差別の不合理さは一層際立つだろう。
第2に、給付日額や給付期間の水準が低すぎる。給付日額の上限は8330円だが、この上限も抜本的に引き上げるべきであるし、給付率は45~80%とされており、低すぎる。また給付期間は原則3か月となっているが、これも短すぎるため、日額上限、給付率、給付期間を抜本的に引き上げていくべきであろう。
こうした制度改善は、新型コロナ禍以前から必要とされてきたものであるが、新型コロナ禍に入っていっそう強く求められるものとなっている。少なくとも新型コロナ禍の緊急措置という形で、こうした制度改善を行っていくべきだろう。これまでの新型コロナ禍の雇用政策は、「休業問題対策」であったが、今後「失業問題対策」へ徐々にその重点を移していくことが求められると思われる。
<文/栗原耕平>
1995年8月15日生まれ。2000年に結成された労働組合、首都圏青年ユニオンの事務局次長として労働問題に取り組んでいる。