トランプや維新はなぜ「敗北」を認めないのか? 『ザ・ボーイズ』シーズン2で認識する現実政治の愚行

力をめぐる闘争と、それを終わらせるための力

 重要なのは、前者のまやかしの敵対関係が、力をめぐる闘争であるということだ。闘争のために力を振るうのではなく、力があるから闘争する。ヒーローたちは、自らの強さを示し他者を抑えること自体が目的化している。強さこそが権威であり、人々が権威に従うことによってヒーローは承認される。  だからホームランダーは、自分自身のスキャンダルに対して開き直ることができない。彼の力は軍隊より強い。どんな政府の治安機関も、彼を物理的に止められない。ホームランダーの能力であれば、やろう思えば政府を転覆し、反対者を皆殺しにし、その後釜に座ってしまうこともできる。しかしホームランダーにはそれができない。いくら強さを誇示しても、その強さに喝采し、付き従う民衆がいなければ意味がないからだ。  ボーイズは、こうした力をめぐる闘争の茶番を終わらせるために戦っている。しかしそのために用いる力も、力である以上、いつまたボーイズたちも力をめぐる闘争の中に巻き込まれてしまうか分からない。これがボーイズのジレンマとなっている。自分たちがヒーローと同じ力の誘惑に巻き込まれないためには、極めてコントロールされた力の運用が求められる。主人公ヒューイがブッチャーの安全弁である意義はここにある。  こうしてみると、ヒーローとその力の扱いをめぐるテーマに関しては、このドラマはMCUのような近年のヒーローもののトレンドから外れてはいないことがわかる。すなわち、「大いなる力には、大いなる責任が伴う」。

力を持つものの被害者意識

 2020年の大統領選挙で、バイデンに敗れた現職のトランプ大統領は、白人至上主義者の支持を集めてきた。白人至上主義者たちは、BLMなどの「有色人種」の運動を恐れ、自警団を組織する。見た目は筋骨隆々でマチズモを象徴するような男たちが、「人種」平等を要求する運動による「白人差別」を恐れているのだ。  ナチスの生き残りであるストームフロントは、ホームランダーに匹敵する力の持ち主で、「強い女性」を装って現れるのであるが、「有色人種」による「白人虐殺」を止めるためにヒーローを支持せよと訴えかける。  現に抑圧している者は、しばしばこうした異常なまでの被害者意識を抱いている。力をめぐる闘争は、力を持つ者の弱さにより拍車がかかる。それはこのドラマの重要なテーマのひとつでもある、男性ジェンダーの問題でもある。

男性ジェンダーとポピュリズム

 最強のヒーローであるホームランダーは、脆弱な人物だ。力こそが彼のアイデンティティであり、それ以外にはない。彼は常に自分自身が中心でなければ気が済まない。対等な他者を認めることができず、ストームフロントのような存在が登場するとフリーズしてしまう。民衆の崇拝がなければ自己肯定感を持つことができず、自分を癒してくれる女性を必要としている。  ヴォート社のヒーローシステムは、そのような男性にとって耐えがたい魅力がある。ホモソーシャルの集団から脱落したディープ、Aトレインも、結局はその集団に再び戻る以外の選択をとれない。  ポピュリズムの指導者は、このような男性ジェンダーの精神性を引き継ぐ。弱さを認めず、敗北を認めず、失敗を認めない。選挙に敗北しても、住民投票に敗北しても、子供じみた往生際の悪さで開き直る。それこそが強さであり人間を服従させる唯一の権威だと信じている。  我々は、ヒーローたちの醜態や取り乱しを見ることによって、そうした現実政治の愚行を改めて認識する。現実がドラマと違うのは、現実の政治では陰謀論的な世界観を提示する必要もなく、すべての茶番が茶番として公開されているということだ。ジェンダーと政治のメタを絡めながらキャラクターたちの行動や言動を追っていくことが、このドラマを楽しめる秘訣となるだろう。  『ザ・ボーイズ』はすでにシーズン3の制作が決定済みである。新たなヒーローの登場も予告されてるようで、目が離せない。 <文/藤崎剛人>
ふじさきまさと●非常勤講師&ブロガー。ドイツ思想史/公法学。ブログ:過ぎ去ろうとしない過去 note:hokusyu Twitter ID:@hokusyu82
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