現在、世界で最も多く消費されている植物油脂「
パーム油」。その原料となっているのは「油やし」だ。英語で言うと「オイルパーム」で、採れる油が「パームオイル」、時には「パームやし」なんて言葉すら聞く(「やしやし」ってなに? と思うが)。
この油やしから採れる油の量はけた違いに多い。単位面積当たりの収量が、大豆種の7倍、菜種の3.2倍に上る。しかも油やしは、採れる油の種類が多い。本体の種を精製すると、透明な油(食品用)も、どろどろした油(工業用)も採れる。しかも価格は安い。
さらに、種の中に入った実(梅干しでいう「天神様」)の部分からは、ココヤシ油に似た油が採れる。おかげで、他の油を取るための作物と入れ替わってしまうのだ。
それだけなら誠に結構な話なのだが、それだけに終わらない。世界一生産量が多く、安く、しかも用途が広い。しかも精製後は「無味・無臭・無色」になるため、他の油に混ぜ込まれてもわからず、用途の全体像がつかめないのだ。
多くは「植物油」という分類の中に隠されてしまう。 それがどの油とブレンドされてしまっているのだろうか。外食やお菓子、お惣菜を買う場合には、使われていないことはないとまで言われている。
ある時、あの真面目な「生活クラブ生協」に相談してみたことがある。
「食品のいたる所に入っているので、使わないのは不可能」だと言われた。「生活クラブ生協」にしてそうなら、他は推して知るべしだろう。
親と同じプランテーションで働く子ども(著者撮影)
安くて安定していて低価格ならその何が問題なのか。ぼく自身は
「油やしプランテーションが熱帯林を破壊している」という話を聞いて、その実態が知りたくて1994年にマレーシアに調査に出かけている。その頃はマレーシアが油やしの最大生産国で、世界で独り勝ち状態だった。今はインドネシアが世界第1位となっているが、それまではマレーシアが1位だった。
プランテーションで働いている人たちは、ほとんどがインドネシア人だった。
マレーシアに比べて賃金が安かったインドネシアから、多くの労働者がビザを持たずに入ってきていた。その人たちは、稀にマレーシア政府が行う「不法入国者の一斉検挙」に怯えながら働いていた。しかしマレーシア政府も、インドネシア人労働者なしにプランテーションが成り立たないことを知っていたからか、厳格な取り締まりまではしないようだったが。
何より気の毒だったのは、彼らは他に行く場所がない人たちだったことだ。もし工場で働くことができたなら、その方が稼げる。しかしそれは不法移民にはできない。さらに気の毒なのは、
働き手だけではなく家族総出で働かなければならないことだ。
農薬を撒いたり除草をしたりすることは「軽作業」に分類されていて、女性たちの仕事になっていた。さらに細々と散った油やしの種を拾い集める仕事と、切り落とした枝を片づける仕事は子どもの仕事になっていた。子どもたちは家族と一緒に働けるので、楽しそうにしていた。
しかし、
子どもたちは学校に通うことができない。まず物理的に難しいのだ。油やしは、切り落としてから24時間以内に精製しないと良い油にならない。ところがその製油工場一つを稼働させるためには、日本で言うと市町村一つ分の森がすべて油やしのプランテーションになるくらいの規模でないと精製工場が操業できない。