熱帯雨林破壊、児童労働、温暖化促進etc.「持続可能」とはとても言えないパーム油利用の闇

パーム油発電は、地球温暖化対策とはいえない

 もしそれが地球温暖化を防止する効果があるのなら、百歩譲って導入するのも仕方がないことかもしれない。しかしこれについては、政府の「総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 新エネルギー小委員会 バイオマス持続可能性ワーキンググループ」なるものの報告書で決着がついている話なのだ。  というのは、パーム油であっても「泥炭地(酸性度が高い湿地帯で、木材などの有機物が分解せずに炭化して残っているような土地)」では、それに火が点いて燃えるために、かえって温暖化を進めてしまうのだ。  現にインドネシアの二酸化炭素排出量は、中国・アメリカに次いで世界第3位。加えてパーム油を絞った後、排水処理を怠っている場合が多いために、二酸化炭素の25倍も温室効果のあるメタンガスを発生させてしまうことも多いのだ。
各国のバイオマス燃料のGHG(揺りかごから墓場までの二酸化炭素排出量)。資源エネルギー庁資料より

各国のバイオマス燃料のGHG(揺りかごから墓場までの二酸化炭素排出量)。資源エネルギー庁資料より

 その結果、よく管理された場合でも「天然ガスコンバインドサイクル発電所並み」の温室効果を発生させ、悪ければ「石油火力発電所並み」に温暖化を促進する。つまり、化石燃料を燃やすのを止めていこうとして、化石燃料を使った場合よりも温室効果ガスを出す。「馬鹿じゃないか」と思う。
泥炭地から流れ出る酸性度の高い川

泥炭地から流れ出る酸性度の高い川(著者撮影)

 これは「再生可能エネルギー」などとはとても呼べない。それが日本の馬鹿な制度の下で推進されそうになっているのだ。それだけじゃない。上に述べた「泥炭地(酸性度が高くて木材などが分解せずに残っているような湿地)」では、そうではない土地と比べて、その泥炭が分解することによって139倍も温室効果ガスを排出するのだ。  こんなものは地球温暖化対策とは言えない。それなのにFIT(再生可能エネルギーの固定買取制度)によって高値で買い取られてしまう。その財源は、一般利用者の電気料金に上乗せされている「再生エネルギー等促進賦課金」だ。これこそ最も早急に変革されなければならない。

持続可能なパーム油の認証制度に抜け穴も

油やしの植林のために破壊された熱帯林

油やしの植林のために破壊された熱帯林(著者撮影)

 しかしパーム油によるバイオマス発電をしようとする事業者の側も、批判されて事業が中止にされる可能性からか、いろいろと批判に応えている。 「当社では、事業計画策定ガイドラインの目的、RSPOの持続可能なパーム油の生産と利用を促進することを目的とした取り組み、パーム油最大産油国のパーム油生産・流通を制度化した認証基準(MSPO)マレーシア、(ISPO)インドネシア)など、パーム油に関する問題の解決に向けた世界的な動向に賛成しています。(筆者注:これらは民間企業や各国政府が作成した認定基準で、それぞれ問題を起こさないための基準が定められている)。そして、持続可能なパーム油の調達に、積極的に取り組んでいます」(明和エンジニアリングのウェブサイトより)  パーム油輸出国第1位のインドネシア、第2位のマレーシアとしては、主要な輸出品であるパーム油生産側に厳しい認定基準はつくれない。これについてNGOの「FOE JAPAN」は以下のようなことを問題点として挙げている。 ・認証機関に対するトレーニングができていない。ガイダンスの作成等ができていない ・社会環境配慮アセスメントのガイダンスが弱い ・新地開拓プロセス・新地開拓後のコンサルテーションが弱い ・FPIC(自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意)のガイドラインが弱い ・不正行為の確認・制裁が弱い ・苦情申し立てシステムが弱い  さらにこの認証制度には、抜け穴もある。「RSPOは、森林を伐採してそこに油やしプランテーションを作るのは規制するものの、すでに農地となったところをプランテーションに転用することは規制していない。つまり、森を開拓してキャッサバ畑などにし、キャッサバ畑を油やしのプランテーションにすれば、RSPO(持続可能なパーム油のための国際規格)認証を得られる(FOE JAPAN)」というのだ。
マレーシア・サラワク州の森林の変遷

マレーシア・サラワク州の森林の変遷

 もしこの批判をその通り受けとめれば、この認証は「グリーンウオッシュ」(環境に良いものと見せるために、緑色に染めること)ではないかとの疑問が湧く。この「FOE JAPAN」は、歴史も長く真面目なNGOだ。ただ批判しているだけの団体とは違う。そして何より熱帯林が失われたことは周知の事実だ。
パーム椰子系生産物・副産物のサプライチェーン例て

パーム椰子系生産物・副産物のサプライチェーン例(資源エネルギー庁資料より)

 さらに、パーム油そのものをバイオ燃料として使うことに対しては「食べ物を燃料にするな」という抵抗感も大きい。そのため、パーム油発電の事業者側は「燃やすのはバーム油そのものではなく、パームの実の残り部分(PHS)や燃やせない残り部分(EFB)を燃料にしているから問題ない」という。  しかしそれでも変わらないのは、原料を遠くから輸入してくるため、運送に関わる二酸化炭素排出量が多いことや、実質的に現地でのパームオイル生産地の拡大につながっているということだ。地球の貴重な財産であるはずの熱帯林は、どんどん壊されてしまっている。油やしプランテーションの開発で、森は破壊され、木々は燃やされ、生物は生きる場所を奪われた。  パーム油発電では、残念ながら温室効果ガスの排出量は減ることはなく、地球温暖化は止まらない。このまま進行させていいものだろうか。 【「第三の道」はあるか 第6回】 <文・写真/田中優>
1957年東京都生まれ。地域での脱原発やリサイクルの運動を出発点に、環境、経済、平和などの、さまざまなNGO活動に関わる。現在「未来バンク事業組合」「天然住宅バンク」理事長、「日本国際ボランティアセンター」 「足温ネット」理事、「ap bank」監事、「一般社団 天然住宅」共同代表を務める。現在、立教大学大学院、和光大学大学院、横浜市立大学の 非常勤講師。 著書(共著含む)に『放射能下の日本で暮らすには? 食の安全対策から、がれき処理問題まで』(筑摩書房)『地宝論 地球を救う地域の知恵』(子どもの未来社)など多数
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