勧誘ツールとして使われていたパワーポイントの資料。ひたすら儲かることが強調されている
コロナ禍で思うように稼げなかったKさんは、元手が増えたことでPGAの魔力に取り憑かれてしまった。うなだれながら語る。
「同僚から聞いているタイムリミットは、変わらず11月だという話でした。残業代が全面カットされて苦境に立たされていたので、プロジェクトが飛ぶまでに稼ぎ切りたいと思った僕は、預貯金すべてと消費者金融で借りられるだけ借りて突っ込んでしまったんです。それが9月頭の話でした」
追加入金をしたこのタイミングから、事態は急坂を転がり落ちるように悪化していく。悪夢の始まりは、9月末にかかってきた勧誘元の同僚からの電話だった。
「出金できなくなっている、何かおかしい。そう伝える同僚の声は震えていました。サイトを見ると『中国の大型連休によるもので、問題はない』と説明がありました。モヤモヤしたまま過ごしましたが、10月に入っても一向に改善されず、ついには10月20日にサイトが閉じてしまった。ここでようやく『先に飛ばれたんだ』と気づいたのです。PGAの実質トップとされているインフルエンサーは怒り狂った投資家に自宅を急襲されたなどと投稿しており、事件に黒幕がいると示唆していますが、到底信じられない。かといって今の自分にとれる手段はないので、途方に暮れています」
以上がKさんが体験したポンジ・スキームの被害事例だが、仮想通貨やウオレット型の案件など“今っぽいもの”だけがはやっているわけではない。「インサイダー情報があるから株を買おう」と持ちかけて先にカネを預かる手口や、金やダイヤモンドなどの鉱山の投資を促すもの、「元外資系証券の敏腕トレーダーが代わりにトレードをしてくれる」と謳うものも存在する。預けたカネが返ってくることは、まずない。
「詐欺罪で逮捕・起訴まで持っていくことは相当困難」
ポンジ・スキームをはじめ、詐欺事件の実態に精通するコラムニストのZ李氏が内情を明かす。
「毎日のように投資詐欺の被害相談が寄せられますが、天皇と仲良いアピールをする馬鹿に引っかかったり、借用書を巻かずにお金を預けてしまったりと、なんでそんな行動を取るのか理解に苦しむ被害者が本当に多い。そもそも、投資詐欺は加害者側に圧倒的に有利な仕組みになっており、被害に気づいても明確な犯意を立証できない限り、詐欺罪で逮捕・起訴まで持っていくことは相当困難です。何十人から何億円と騙し取ったやつですら、警察に突き出しても出資法違反、つまり罰金刑だけで釈放されてしまう現実がある。
投資でもなんでもそうですが、お金は投げる側が圧倒的に弱いことをまず理解すべきです。だいたい楽して儲かる話がそう簡単に入るわけがない。そんな話に乗るくらいなら、天皇賞で史上初のGⅠで8勝を挙げたアーモンドアイとか、ボクシングの井上尚弥にスポーツベッティングで賭けたほうがはるかにマシ。人づてに聞こえてくる投資話なんて、ハナから耳を貸さないほうがいい」
苦労して貯めた財産も、たった一つの判断ミスで水泡に帰す。君子危うきに近寄らず――を徹底すべきだ。