京都のラブホテルは何をウリにしている? 都心と郊外の違いからコロナ禍の影響まで <ラブホテルの地理学>

利用形態と価格帯

 次に、料金について見てみよう。各ラブホテルのプランのうち、最も安いものを1時間あたりの料金で示すと次の図のようになる。 京都のラブホ1時間あたりの最低料金  赤が比較的料金の高いもの、青が比較的安いものを示しているわけだが、その分布には明確な傾向が見られる。都心部のラブホは高く、郊外のラブホは安い。そんなこと当たり前だろう、などと言わないでほしい。当たり前だと思っていることが本当に正しいかを確かめることも、こういった分析の意義なのだ。  この料金の差は、利用形態の違いも示している。郊外のラブホは、都心のラブホよりも最短利用時間が長いことが多い。京都の場合、都心であれば休憩プランは1時間ないし1時間半からが一般的だが、京都南ICなど郊外では2時間からとなっている店舗も多い。都心のほうが遊んだ後にふらっと寄るケースが多く、そのぶん利用時間も短めに設定されている。また、派遣型風俗営業との関係も影響しているだろう。そうなると、1時間あたりの料金は当然都心型のほうが高くなる。

ラブホ広告文のテキストマイニングをしてみると……

 さて、ここからようやくラブホテルの広告文の話に入る。筆者がたびたびお世話になっているラブホテル情報サイト「ハッピーホテル」には、各ラブホテルの広告文が掲載されている。例として、祇園周辺にあるラブホテル「T」の広告文を載せたが、ここでは「バブルバスと高級感溢れる家具」といった内装に関する記述や、「繫華街河原町も徒歩圏内」といった立地を謳う記述が見られる。これを一つ一つ見ていくのも面白いのだが、いちいち紹介していてはあまりに長い記事になってしまう。  と、いうわけで、今回はこの広告文をテキストマイニングで分析することにした。京都市のラブホテルを都心に近い区郊外の区で分け、それぞれの広告文に出現するワードを結びつきの強いもの同士をまとめて表示させたのが次の図である。  コロナ禍の以前と以後を比較したいので、まずはコロナ禍以前の2019年末の広告文を分析してみた。もちろん過去のデータはもう取得できないのだが、幸いにも以前たまたまこの分析をしたことがあったので、どうにか図を作ることができた。過去の自分に感謝したい。 都心に近いラブホの広告文(コロナ禍以前)  まずは都心に近いラブホから見てみよう。もっとも目立つのは、「京都」や「観光」といったワードである。また、「アクセス」や「抜群」の文字も見られる。祇園、八坂神社、清水寺など、観光地が徒歩圏内にあることをウリにしているようだ。ラブホテルでありながら、その内部よりも周辺環境が強調されているのが面白い。宿泊施設としての側面が強く出ているのが、京都の都心型ラブホテルの特徴といえるだろう。 郊外にあるラブホの広告文(コロナ禍以前)  次に、郊外にあるラブホテルの広告文を見てみよう。先ほどとは異なり、観光に関するワードはまったく見られない。反対に、「お客様」-「満足」-「リーズナブル」-「設備」-「清潔」といった結びつきが目立つ。周辺環境をウリにする都心型とは対照的に、ラブホそのものの魅力を押し出しているのが郊外型ラブホテルの特徴と言えるだろう。個々の広告文では「露天風呂や炭酸泉、岩盤浴」や、「高級シモンズベッド、100インチプロジェクター」など、他にはない設備が謳われている。また、「リニューアル」-「オープン」や、「料金」-「更に」-「得」など、新しさも重要な要素である。  面白いのが、食べ物に関する広告がいくつか見られる点である。「焼き立てパンのモーニング始めました」(HOTELとなりのクル)や、「期間限定新メニューうどんフェア実施いたします」(HOTELエルミタージュ)など、もはや何が主目的か分からないような広告も見られる。立地面では不利な郊外型ラブホテルは、そのぶんサービスを充実させて差別化を図っているのである。  このように、広告文からはそれぞれのラブホが立地環境に応じてさまざまな売り出し方をしていることが分かる。都心型ラブホは「外」をアピールするのに対し、郊外型ラブホは「中」をアピールする。また、広告文に神社仏閣が登場するのは京都ならではと言えるだろう。
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コロナ禍が変えたラブホのセールスポイント
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