コロナ禍のディズニーリゾートで起きていること。パレードの出演者たちが涙の訴え。

夢の国における労働問題は以前から

――同社の雇用の問題は、今回に限ったことではないそうですね。 鴨:理不尽な理由で、雇い止めを通告されたキャストがいます。例えばAさんは、「顔が怖い」という理由で雇い止めを通告されました。チームリーダーが休みの日に、若いBさんがその代わりを務めることになったのですが、Bさんが不安そうだったので、Aさんは「大丈夫かな」と思って、Bさんを見ながら働いていたそうです。するとBさんが「Aさんの顔が怖い」と上司に訴え、Aさんは呼び出されて、注意を受けました。  さらに翌朝、Bさんに会った際にAさんが謝ると、Aさんはまた上司から呼び出され「本人が怖がっているんだから、謝りたかったら上司を通してくれ」と。その度に「指導確認書」というのを書かされました。それが3枚溜まったので年末に辞めてくださいと。  また、ある男性キャストは、園内で風船を売っていた時に、お金をカウントする機械が壊れてしまいました。客が並んでいたので仕方なく手計算でその場をしのぎ、会社に報告すると、「マニュアルに沿っていない」という理由で雇い止めを通告されました。こちらの男性も、顔が怖いと言われた女性も、組合が雇い止めの理由がないと交渉を行って、雇い止めは撤回になりました。 ――岸本さんは、指導確認書を書かされたことは? 岸本:私がやったことじゃないのに書かされそうになったので、断固拒否をしましたね。「これを書いたら、辞めさせられちゃう」と思って。指導確認書って、本当に理不尽ですからね。ゲストの方がご自身でカメラを落としたのに、キャストが指導確認書を書かされたりとか。あと、子供が着ぐるみに向かって走ってきて転んじゃったのも、キャラクター出演者のせいにされ、指導確認書を書かされていました。 ――他にはどういった問題がありましたか? 鴨:6時間勤務の退勤直前に、残業してくださいと言われることが多かったようです。たとえば朝9時から働き、15時の退勤直前に残業依頼がくる。この間は休憩なしなので、少し休みたいので、「休憩を取ってからやりたい」と申告すると「では、残業やらなくていいです」と言われるそうです。これは違法です。6時間以上働く場合は、残業を命ずる時でも、45分以上の休憩を入れないといけないので。明らかな違法状態だったので交渉で、すぐに会社は認め、改善しました。

夢を壊さないために語れない

――そんな状態でも、なぜ声をあげられないのでしょう? 岸本:守秘義務があって、それにがんじがらめにされちゃっています。入社の時に誓約書を書くんですが、それで「仕事の話を人にしてはいけない」とみんな思っています。私は家族にも友達にも仕事の話をしておらず、家族は、私が何の仕事をしているか10年以上知りませんでした。 ――誓約書に法的実効性はあるのでしょうか? 鴨:業務内容に関しては守秘義務にあたるかもしれませんが、労働条件について話すことは守秘義務違反ではありません。OLCで働く人は、自分の労働条件を話すことも守秘義務違反だと思わされている。 ――洗脳されているような状態ですね。 岸本:「夢を守る」ために守秘義務が厳しくなっています。声をあげると、今働いているキャラクター出演者の中には「夢を壊した」と感じる人がいるようです。私たち出演者は、「キャラクターであって人ではない」という考え方なので、怪我をしてもパワハラを受けても、言えないんですよね。 ――キャラクターの中に、人は入っていないというファンタジーを守らないといけないんですね。 岸本:実際には、キャラクターの中には人がいて、皆と同じ労働者なんですけど、それを言うことがあまりにもタブー視されすぎているんですよ。内部だけじゃなくてゲストもそういった感覚なので、声を上げると同僚からもゲストからも「夢を壊された!」って攻撃を受けることも多いですね。なので、内部で起こっていることが出せなくなってしまっています。 鴨:ゲストも働く人も、ディズニーランドに夢を求めています。夢の国を維持するために、リアルな現実は夢の国にふさわしくないとされて、働く人への不当な扱いが表に出にくい。だからこそ組合は「業務荷重がない、パワハラがない、本当の夢の国にしよう!」と舞浜で声を上げ続けています。夢の国に相応しい労働条件、キャストへの扱いが実現することを願ってやみません。 <取材/HBO編集部> <構成/Mr.tsubaking>
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