学術会議問題と人種差別。「見た目」で判断する権力の理不尽さ。<史的ルッキズム研究10>

学術会議の任命拒否、その理由とは

菅首相

(時事通信フォト)

 菅内閣による学術会議の任命拒否について。すでに国会でも質問が繰り返されていると思いますが、菅総理は6名の科学者を排除した理由を明らかにしていません。彼らはただ「総合的・俯瞰的に判断」と言うのみです。  巷間では排除の理由が推測されています。最も有力視されている説は、6名の科学者が安保法制や「共謀罪」法案に反対の立場をとっていたから排除されたのだ、という説です。なるほどそう考えると辻褄が合います。しかし、これは推測にすぎません。菅内閣は、排除した理由を明らかにしていないのですから、断定はできません。おそらく9割9分そうだろうなと考えられるのですが、残りの1分、そうではない可能性があります。内閣の意向に反したという理由ではない、別の理由があるかもしれません。今回は、その排除の理由について考えます。

「見た目」で判断する権力

 私が推測するところ、6名の排除の理由は、見た目です。人間の外見、ルッキンです。そんな馬鹿なと思われるかもしれませんが、これは充分にありうることです。眼鏡のフレームが古臭いとか、もみあげが長すぎるとか、目つきが気に入らないとか、そういった外見を理由に役職をはずされるということは、あるのです。  今回の任命拒否にかかわったとされる杉田官房副長官は、警察庁・警備公安警察の出身です。警察というものは、人間を外見で選別します。私たちは権力の行使というものを何か合理的な目的をもったものと考えがちですが、警察はそうではありません。警察は、人間の外見を凝視し、内容に関心をもたないという性質があるのです。  私はかつて「左翼」と呼ばれる世界に身を置いていて、警備公安警察に勾留され尋問された経験もあるのですが、そうした経験からわかったことは、彼らは監視対象の主張内容をほとんど理解していないということです。警備公安警察は、こまめに機関誌をチェックして、左翼の動向分析をしているのですが、彼らの出すレポートは非常にお粗末なものです。分析は表面的で、肝になる部分をまったく理解していない。たぶん、あまり関心がないのではないかと思います。彼らは権力の行使には積極的である反面、対象者の主張内容にはほとんど関心がないのです。  だから、警備公安警察から出向した杉田官房副長官が、6名の学者たちの研究内容を精査したとは考えにくい。彼らが頼りにするのは、見た目から受ける印象、フィーリングです。対象人物が危険か危険でないかを、見た目の印象で判断する。これは権力の本来的な性質です。
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「犯罪者というものは見ればわかります」
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