時間が経つにつれて、参加者の数はどんどん増えていく
拡声器などを使ってシュプレヒコールを促す参加者もいたが、筆者が感じたのは非常に「
民主的」な空気というか、
デモが参加者一人一人の意志の集合体であった点だ。
途中から参加する人もいれば、反対にしばらくすると家に向かう人もおり、「
決まりごと」のようなものは感じられなかった。あくまで
各個人の意志の発露であるという点は、民主主義の根幹とも言えるだろう。取材では、次のような意見が出た。
「今のような(コロナショックの)状況でこんな法を通そうとするのは、
国を舐めています。国民をどう見ているか、よくわかりますね。これまで法案を押し通そうとするたびにデモが発生していましたし、
こうなるのはわかりきっていたことです。そもそも、こうした法案は一部の専門家だけでなく、心理学者や新生児学者など、
さまざまな医師の声を集めたうえで議論するべきです。
議会で議論しても勝てないからといって、強行的に通すべき法案ではありません」(女性・30代)
「この法案自体も問題ですが、このデモはそれだけでなく、
現政権に対する怒りの現れです。妊娠中絶禁止法案の陰では、できてもいないし、どのような副作用があるかもわからない、
ワクチンの強制摂取などの法案も進められています。
デモの騒動に乗じて、さまざまな法案を通そうとしているので、
国民は政府の動きを注視する必要があります」(男性・30代)
「仕事があるのでデモには参加しませんが、法案には反対です。『
デモの参加者はノリで集まっているだけの意識高い系』なんて批判する人もいますが、
いろんな事情があって参加していない人の声も集めたら、むしろ反対の声はより大きくなると思います」(女性・20代)
コロナの影響ですっかり人通りの少なくなった街に人が溢れている……。そんな光景だけでも、今回のデモがどれだけ力に溢れているか痛感したが、帰宅してテレビをつけると、よりその影響力が感じられた。
ニュース番組で全国各地のデモの様子が生中継されていたのだが、首都
ワルシャワではいったいどれだけの人が集まっているのかもわからないほどの人波が起きていた。
約10万人と報道するメディアもあったが、空撮映像では
それ以上とも思える人の数だった。
数千人規模の行進を行なっている街もあれば、音響設備やレーザーを使って
音楽をかけながらリズムに合わせて踊っている街もあり、
デモのテーマは同じだが、抗議の仕方はさまざまだ。
「
ザ・ガーディアン」など欧米メディアも伝えるとおり、ポーランドでは、こうしたデモ、そして国民一人一人の声により、事の発端となった
妊娠中絶禁止法の導入は遅れている。はたして、強制的に施行されるのか、廃案となるのか……。(参照:
The Guardian)
今後、どうなるかはまだ不明だが、
政治や司法が国民の声に向き合わなければいけないことは間違いないだろう。その声の大きさは、今回のデモによって示されたのと同等、もしくはそれ以上のものとなるはずだ。
普段、その恩恵に与りながらも、
なかなか実感する機会のない民主主義の力を、目で、耳で体感させられた。
<取材・文・撮影/林 泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン