国も2008年から自治体の「持続可能な地域づくり」を支援しています。それを国で担当しているのは内閣官房・内閣府です。地方自治を担当する総務大臣や環境政策を担当する環境大臣とは別に専任の担当大臣を置き、政府全体で支援しています。名称は
「環境モデル都市」「環境未来都市」「SDGs未来都市」と複数ありますが、いずれも「持続可能な地域づくり」を支援する点で同じです。政府が公募し、有識者による選定プロセスを経て認定します。認定後、自治体は進捗状況を国に報告し、国は補助金などで支援します。
2008年7月に第一弾の支援対象として「環境モデル都市」に認定されたのは、横浜市、北九州市、富山市、帯広市、水俣市、下川町の6自治体でした。これらの自治体は、認定から12年を経て、実績を積み重ねて「持続可能な地域づくり」の先進自治体として知られるようになっています。例えば、横浜市は廃棄物の焼却量を大幅に減らし、北九州市は環境関係の産業を集積させ、富山市は公共交通を発展させています。それだけ、都市としての魅力も高まっています。
「環境モデル都市」は2014年3月まで4次にわたって認定され、23自治体が認定を受けています。これは、都市の低炭素化と経済の活性化の両立を主眼とする認定です。都道府県に準じる権限を有する政令指定都市と中核市に限ってみても、横浜市、北九州市、京都市、堺市、新潟市、神戸市、富山市、豊田市、尼崎市、松山市と、6政令市・4中核市が認定を受けています。
「環境未来都市」は2011年12月に、東日本大震災の被災自治体を含め、11自治体が認定を受けています。これは、都市の低炭素化と経済の活性化に加え、高齢化社会への対応と住民参加を重視した認定です。政令市と中核市で認定されたのは、横浜市、北九州市、柏市、富山市です。横浜市、北九州市、富山市は「環境モデル都市」としての先駆的な取り組みが評価され、重複認定となりました。
「SDGs未来都市」は2018年6月から3次にわたって認定され、2020年11月時点で93自治体が認定されています。都道府県では10地域、政令市では14都市が認定を受けています。
横浜市、北九州市、富山市、下川町は「環境モデル都市」「環境未来都市」「SDGs未来都市」のすべてで認定を受けています。いずれか二つの認定を受けている都市も、堺市、豊田市、陸前高田市、東松島市、つくば市、生駒市、水俣市、ニセコ町、小国町、西粟倉村の10自治体あります。
これらの自治体のなかには「持続可能な地域づくり」を始めたばかりのところもあり、すべてが先進自治体ではありませんが、
積み重ねが長い自治体ほど、先進的な傾向はあります。とりわけ「環境モデル都市」と「環境未来都市」は、多数の応募から少数の自治体を厳しく選抜し、フォローアップを重ねているだけあって、一定の成果が出ています。
「持続可能な地域づくり」で大きく出遅れた大阪府・市
日本維新の会は、一貫して「自立する地域」を主張し、他の国政政党に対抗して、地域政党としての性格を特徴としています。同党は、政治理念を「自立する個人、自立する地域、自立する国家を実現する」とし、基本方針で「国からの上意下達ではなく、地域や個人の創意工夫による社会全体の活性化を図る」としています。
そうであれば、
同様の考え方に立脚して「持続可能な地域づくり」を推進する自治体として、大阪市が早期に認定されていても良さそうです。
政令市では、2008年7月に横浜市と北九州市、翌1月に京都市と堺市、2013年3月に新潟市と神戸市が「環境モデル都市」の認定を受けています。他にも、
大阪市の近隣では、2013年3月に尼崎市、翌年3月に生駒市が「環境モデル都市」の認定を受けています。よって、大阪市にも認定の可能性は十分あったはずです。
しかし、
大阪市が「SDGs未来都市」として認定を受けたのは2020年7月の同3次認定で、これから「持続可能な地域づくり」に着手する状況です。残念ながら、横浜市や北九州市、京都市、堺市に遅れること12年です。少なくとも「国からの上意下達ではなく、地域や個人の創意工夫による社会全体の活性化を図る」先進自治体とはいえません。
都道府県の認定は2018年の「SDGs未来都市」第一次認定からですが、大阪府は2020年の第三次で認定されました。第一次で認定されたのは、北海道、神奈川県、長野県、広島県の4道県で、翌年の第二次で認定されたのは、富山県と滋賀県です。大阪府は、それらの道県に遅れ、第三次で岐阜県と三重県とともに認定されました。
このように、
大阪府・市は「持続可能な地域づくり」で大きな後れをとってしまっています。この分野の政策が現在進行形で発展していることを踏まえれば、これは
「国からの上意下達ではなく、地域や個人の創意工夫による社会全体の活性化を図る」点で致命的です。
大阪府・市が出遅れた背景には、大阪市廃止に政策資源を集中したことがあると考えられます。横浜市や北九州市、富山市などの
先進自治体では、組織横断で「持続可能な地域づくり」を進め、担当する部局に政策資源を集中させています。例えば、
富山市ではLRT(次世代型路面電車システム)などの公共交通の整備に力を入れ、高齢化して自動車を運転できなくなっても、安心して買い物や病院通いができるまちづくりを推進しています。LRTは低床式のため、高齢者や障がい者なども容易に乗降でき、外出のハードルを下げています。このようなまちづくりができるのも、市長や市幹部がそのためにエネルギーを注ぎ、政策資源を投入しているからです。
つまり、
10年間にわたり大阪市廃止に政策資源を集中してきた大阪府・市は、住民生活と地域経済にとっての「空白の10年」を生み出してしまったのです。他の先進自治体は、試行錯誤を含め、様々な政策を実行し、知見を積み重ねてきました。東京、横浜に次ぐ大都市が「空白の10年」をつくってしまったことは、大阪のみならず、日本全体にも大きなマイナスでした。
大阪府民・大阪市民が、大阪市廃止の住民投票を否決した機会を捉え、国内外の先進自治体と同様に「持続可能な地域づくり」にまい進することを強く期待します。それは、地域住民・地域企業の未来を明るくすることに加え、日本の未来を明るくすることでしょう。
<文/田中信一郎>