(続き)
だから人生の前半戦を生きる人たちは、あまり忙しく生きてはいけない。人生の後半戦を生きる人は、まだ競技は終わっていないから人生の幸せな終わりに向けて、今からでも自身をもっと愛してほしい。
人生の前半戦で勝利を飾った私は、後半戦に病魔に負け、競技を敗北で終える。
しかしこの手紙をあなた達に伝えることが出来る、その事に暖かな喜びも感じる。
忙しく社会を生きる方々へ。自分自身を愛し、無理せず生きてほしい。力無い私は、ただ心からあなた達の幸運を祈るだけ。
★★★ 引用、終わり ★★★
2014年5月、心筋梗塞で倒れ、以降グループの実権は息子である李在鎔氏に引き継ぎ、自身は入院生活を続けてきた李会長。
彼が人生を賭けて築き上げた財産も権力も職位も否定し、健康こそが第一であると訴えた手紙は、ネットを介し韓国社会に一気に広まり、人はどのように生きるべきなのかという人生の教訓として人々の大きな共感を得た。
この手紙は、李健熙会長が直筆で書いた最後の手紙というふれこみで拡散されたが、李会長は2014年5月10日に自宅で心筋梗塞を起こし倒れた後、6年5カ月に渡りサムスンソウル病院の病床で過ごした。
そもそも李会長は心筋梗塞後の手術の遅れにより脳に損傷が起こり、全身が麻痺した状態であったとされている。入院後に一度も公にその姿を現したこともないのだ。
病院関係者も拡散されたこの手紙を李会長が書くことは医学的に不可能であったと言い、サムスングループもこの手紙は偽物であるとコメントした。
このように経済界のトップが他界した際には偽の「遺言」が拡散されるケースがある。
米・アップル社の創業者であるスティーブ・ジョブスが他界した際にも、「私が築いてきた富は無意味であった」という彼の偽の遺言が拡散されたりもしている。
韓国経済界のトップの死。その時、彼が何を思ったのか。思う余力すら無かったのか。それは誰にも分からない。
しかしこのように富める者がその富を否定する「最後の言葉」が、偽物であれ拡散される場合、そこには社会の中の持たざる者の願望が多分に含まれているであろうことは容易に想像出来る。
ともあれ韓国経済界の巨星堕つ。心から哀悼の意を表したい。
<文/安達夕>