メディアの注目度も低下した「大学入試改革」で、いま何が話されているのか?これが本当の大学入試改革の現在地

大学入試センターから報道への苦言

 大学入試センターの山本委員(正確にはオブザーバー)が、10月21日に一部メディアで報道された記事について次のように述べました。 「令和6年度(令和7年1月に実施予定)の共通テストで、あたかも新しい教科『情報』が課せられることが決定したかのような的を射ていない報道が流れていたので、(大学入試センターの)ホームページでコメントを載せたのでご覧いただきたい」  そして、次のような内容の説明をしています。  「学習指導要領の改定時にはこれまでも出題科目の検討も行っているので、今回も幅広い専門家を交えて、教科としての『情報』を入れるかどうかを含め、今、検討を行っているところである。関係団体への意見も伺っているところであるが、ひな型というか、検討の素案になるものも必要だろうということで情報提供(資料の配布など)を行ったら、あたかも決定事項のように流れてしまった。先だっての報道のように、『これで決まった』ということでは決してない。  今後は、今年度中に大学入試センターとしての結論を得て、最終的には来年の夏前に文部科学省の方から『大学入試共通テストの実施大綱の予告』という形で発表される予定である」  なお、現在、大学入試センターから関係団体に意見の取りまとめを依頼しているようですが、それの締め切りが11月30日とのことです。 (参考)新学習指導要領は現在の中学2年生から施行されますが、令和2年に中学2年生であるので、次のように覚えておくと便利です。 ・新学習指導要領が開始される年は、今の中学2年生が高校1年生になるときなので   高校1年→中学4年→令和4年 と考えて、 令和4年から開始 ・新学習指導要領に基づく最初の共通テストが実施される年度は、今の中学2年生が高校3年生のときなので   高校3年→中学6年→令和6年  と考えて、 令和6年度 したがって、実施されるのは令和6年度の1月なので、実施は令和7年1月となります。

意見交換からにじむ私大の苦悩

 会議の後半で委員による意見交換が行われました。いくつの話題がありましたが、私立大学が大学入試に苦労をしているという話が印象的です。私立大学が入試に苦労をしている背景として、定員の厳格化、日程的な制約があるとのことです。  定員厳格化については、私立大学側を苦しめるだけではなく、学生のためにもならない。それは、定員厳格化のために私立大学は何度も追加合格を出すことになり、学生の進学先の決定が遅くなる(末冨委員)という理由があげられました。  また、私立大学の代表意見として芝井委員が、共通テストの実施日が1月では遅いことに苦言を呈しています。そのために、採点に時間がかけられず、記述式の問題を出題しようとしても限界があるとのことで、共通テストを早められないか(他の委員から否定されました)などの発言をされています。その中に「基礎学力テスト」すなわち現在の「高校生のための学びの基礎診断」を入試に利用できないかと考えているようです。芝井委員は発言の最初の方では「学びの『基礎』診断」を「学びの『自己』診断」と誤解していて、「『自己』で診断だから入学者選抜には使えない」と考えているようですが、今後、もう一度入学者選抜に利用可能な「基礎学力テスト」を検討されるべきであると主張されました。  今回の会議を通じて、国公立大学と私立大学では、大学入試の役割、実施する環境などが大きく異なるということがはっきりしてきました。全国一律のルールを決めようとすると難しい部分もあり、今後は分けて考えていくこと部分があることもはっきりしてきました。 <文/清史弘>
せいふみひろ●Twitter ID:@f_sei。数学教育研究所代表取締役・認定NPO法人数理の翼顧問・予備校講師・作曲家。小学校、中学校、高校、大学、塾、予備校で教壇に立った経験をもつ数学教育の研究者。著書は30冊以上に及ぶ受験参考書と数学小説「数学の幸せ物語(前編・後編)」(現代数学社) 、数学雑誌「数学の翼」(数学教育研究所) 等。 
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