社会変革を目指した若者たちの現在。台湾の「ひまわり運動」を追ったドキュメンタリー『私たちの青春 台湾』傳楡監督

自分は台湾人という思い

――傳監督は華僑のご両親を持ち、台湾に生まれて育っていますが、大陸(中国)に対するイメージはどのようなものなのでしょうか。また、それについてご両親と差を感じることはありましたか? 傳:祖国に対するイメージの差は大きいと思いますね。父親はマレーシア出身の華僑で母親はインドネシア出身の華僑ですが、彼らは自分たちのことは中国人だと認識しています。中華人民共和国か中華民国か、自分は中華民国の台湾を選んだというだけで、あくまでも中国人だという認識なんです。  彼らにとって中国は大きく、台湾は小さい。だから小さい台湾は中国と一緒にやっていけばいいという発想なんですね。彼らは中国へ行ったことがありますが、発展していない場所にしか行っていません。一方、台湾は発展しているので、中国に対してある種の優越感を持っています。でも、実際は中国の上海や深圳などはかなり発展していますよね。
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 私は両親に比べれば、中国に行った回数も場所も多いので、台湾人として中国に対して経済的な優越感を感じることはありません。ただ、私自身は台湾で生まれており、台湾人か華僑か悩んだ時もありましたが、何より一人の人間であり、台湾で生まれた台湾人だという認識なんです。  そして、台湾は中国と一緒でなければならないということもないですし、祖国が強大な国でなければならないということもありません。台湾と中国、制度は全く違いますが、台湾の方がよりよい国家制度なのではないかと思っています。  台湾は国際的には独立国家としては認められておらず、中国との緊張関係もありますが、独立した国家であって欲しいという思いがあるんですね。 ――物語の終盤、「自分は二人に期待を押し付けていた」との傳監督のコメントが流れますが、ご自身は社会を変えたいと思いながらもそれは実現できずに現在に至るというお気持ちを持っていたのでしょうか? 傳:私が学生だった頃は社会運動の空気はありませんでしたが、彼らには仲間がいて熱心に社会運動をしていました。その様子を撮影できたことは幸運だったと思っています。
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 彼らを撮ること自体が仕事でしたが、他の仕事もありましたので、この映画に全てを注いでいたわけではありません。そういうこともあって、撮影はするけれども、社会運動に対しては彼らに託すという気持ちでいました。ひまわり運動の時もそういう人はたくさんいたんです。運動に関わりたかったけど、仕事があるので時間がない。だから、運動は若者たちに託して物資などの救援だけをする、と。  ただ今は、それは違うのではないかと思っています。確かに、若者には路上に出る時間はあります。でも、街に出てデモをしないと社会を変えられないわけではありません。働いていても社会を変えることはできます。自分はドキュメンタリーを撮って社会に訴えることができますし、例えば、報道に携わる人であれば、政治の世界で影響をもたらすこともできるんですね。

どこにいても社会を変えられる

――今は二人に対してどのような気持ちでいますか? 傳:蔡は中国に戻りましたがお互いのことを考えて今は連絡を取っていません。しかし、彼女の考えていること、特に今の香港の状況に対する思いは私と同じだと思います。みんながよりよく生きていくために頑張って行こうと。  香港の人たちが今後、どのように生き残っていくか、特に黄之鋒は非常に不安定な状況に置かれていますが、逃げも隠れもせず、自分にできることをやっています。私たち台湾人も諦める必要はないんですね。
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 陳は今はアメリカの大学院に在籍中です。社会を良くするために必要なのは街に出てデモをすることだけではありません。今いる場所でできることをやればいい。台湾、中国、香港、アメリカ、どこにいてもより自由でいられるように努力すればいいと思っていますね。 ――今後の活動についてお聞かせください。 傳:今は、香港のことで失望の中にいるので、次は考えることができません。でも、何らかの形でドキュメンタリーを撮り続けていくと思います。 ――この作品で伝えたいメッセージについてお聞かせください。 傳:台湾と中国、香港と中国の関係は多くの人たちがわかっていないと思うので、まずは映画を見てこの関係について知って欲しいですね。台湾と香港が置かれている状況が深刻なだけでなく、中国の一般の人たちも中国共産党の大きな権力の脅威にさらされていると思います。そして、中国共産党の権力が大きくなれば香港、台湾だけでなく、世界中の人たちが脅かされることになると感じています。
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 また、政治については魅力的なリーダーに託してしまい、自分には何もできないと過小評価してしまいがちですよね。自分もそうだったのですが、映画を撮る過程でそれは違うということに気が付きました。なので、映画を見ている人もそのことに気が付いて欲しいです。自分は何の力もない、弱い存在だと思うかもしれませんが、一人一人に社会を変えていく力があるということに気が付いて欲しいですね。 <取材・文/熊野雅恵>
くまのまさえ ライター、クリエイターズサポート行政書士法務事務所・代表行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、自主映画の宣伝や書籍の企画にも関わる。
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