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コロナパンデミックによるスペイン企業への影響は深刻で、4社の内の3社が来年は従業員の削減が必至だと考えていることが明らかになっている。
中でも、経済専門電子紙『
Libremercado』(10月29日付)が触れたバス業界はことさら深刻だ。観光立国であるスペインで3000社以上あるバス会社は、この先の事業経営に非常に強い不安を抱いているという。スペインのバス会社は観光業に依存しているのが大半だ。その観光業がパンデミックの影響で80%近くが落ち込んでいる。ということで、バスへの需要が激減しているのだ。
400社以上の中小規模のバス会社が集まった組織ディレブス(Direbus)の副会長であり、またバス会社ビクトル・ブラボの社長ヨランダ・バーヨは、このまま危機が続くと
バス業界で5万人が失業する可能性があることを同紙で示唆した。
また、「所有するバスの全車が車庫に入っている一方で、出費は膨大だ」と彼女は語っている。例えば、バス車両のリースの支払いや色々異なった保険の支払いや事業運営税などが今年の売上の中から来年分を支払いことになる。ところが、今年の売上は昨年の3割程度しかないというのが大半の企業。彼女の会社の場合は
今年の売上はほぼゼロに近いと指摘している。さらに法人税などの支払いもある。
10月27日にマドリードで中小規模のバス会社が集まっての抗議デモがあった。政府が税金の支払いに猶予を与えてくれることを要求しての抗議デモだった。
その中に、ビクトル・ブラボ社のヨランダ・バーヨ社長も参加した。そこで彼女は取材に答えて次のように述べている。
「我々の会社は倒産寸前だ。将来が見えない。政府が負債の支払いの停止あるいは税金の遅延を受け入れてくれないのであれば、12月まで事業を継続することができなくなる」
「(税金など)支払いたい。しかし、それも営業ができるようになってからにして欲しい」
「公的資金が投入されているアルサやアバンサといった大手バス会社には多額の資金援助があった。我々が去れば、3か月でこれらの大手会社がそれを買収するようになる」
「大手の会社は我々が所有していたサービス事業を(買収によって)分担するということで、この危機が彼らには有益となって来る」
「バス業界の95%がファミリー経営だ。倒産が運命づけられている。政府が資金支援をする彼らのものになるのだ。不当な競争だ」と述べていら立ちを表明した。(参照:『
Libremercado』)
この抗議デモに参加していたフーリオ・ガルシアはマドリード州テレビのインタビューで途中涙を浮かべながら答えたことの一部は以下の通りだ。
「私は破産した状態だ。それ以上何が言えるというのだ。弟はコロナで入院している」
「我々がどのような状態か誰も想像してくれない。神様は我々のことは忘れている。このような状態で続けることはできない。すべての税金を払わねばならない。消費税や社会保障費など、ホテルなどはテレビで取り上げられているが、同じように破産した状態だ。我々も観光業のひとつだが、誰も我々のことを思いだしてくれない」と涙を浮かべながら意気消沈して語った。
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彼は60歳で29歳の時から父親が始めたバス会社を4人の弟と一緒に事業を継いだそうだ。14台のバスを所有しているが、現在5台だけ車庫から出してスクールバスとして運行させているだけ。9台は車庫に入ってままで、蜘蛛の巣もできているそうだ。毎月2万ユーロ(240万円)の負債の支払いがあるという。
営業の8割は観光客を相手のサービスであるが、3月からそれもなくなったそうだ。(スペインが3月から6月まで封鎖したためだ)昨年比で8割ほど売上が少ないので経費の負担を賄うことは不可能。従業員は39名で、休業補償を受けている。ファミリー企業としてすべてを失うことになるという。
最後に彼は「この先3か月が決定的なものになる。もし我々の為に誰かが手を差し伸べてくれない場合は我々は倒産することになる」「開発金融公庫に融資を頼んだが、それも何れは返済せねばならない。大手の路線バス会社には多額の融資がされている。しかし、観光事業、ホテルそして我々には(政府は)何も提供してくれない」と語って悲しみの涙で声が途切れてしまった。(参照:「
Libre Mercado」)
このような厳しい事情を抱えているスペインで、バス会社の例はその一例である。にもかかわらず、来年の閣僚や公務員の給与が0.9%上がることに国民の不満が高まっている。国民が苦しんでいるのに、国民の生活の運命を司っている政府の首相を始め閣僚がその給与アップを受け入れるという姿勢に少なくとも筆者は全く理解できない。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身