キャパ1000人の会場に100~200人しか入れない
政府が緊急事態宣言を出したのは4月7日だが、「戦極MCBATTLE」は4月5日のイベントをいち早く中止。4月11日と5月6日のイベントについても、緊急事態宣言前に中止を発表し、購入者への払い戻しの対応などを行ってきた。
「4月5日の福岡のイベントは、開催すべきかずっと悩んでいましたが、志村けんさんが亡くなったころに気持ちが変わりましたね(3月29日死去)。僕だけじゃなく、そこで世の中の空気も大きく変わった気がします。緊急事態宣言が出ていた4月7日~5月25日のころは、僕の周囲では会場側なども含めて『もう今はできないよね』という感じでした」
しかし、すべてのイベントが中止になっていたわけではないようだ。
「SNSを見ている限りでは、緊急自体宣言中も開催していたイベントもありましたよ。普通に告知して普通に開催していたヒップホップのイベントもあったし、ほかのジャンルのイベントでも同様のケースはありました。どれもキャパ数十人程度の小さなハコのイベントでしたけどね。
あと、2月~4月頃にワンマンライブを予定していた人は、当初は2、3か月先に開催を延期にしていました。つまり『あと数か月したら収まるっしょ』みたいな空気だったんですけど、『全然収まらねえぞ……』ってなってきたのは7月頃になってからです」
ライブハウスやクラブでは、感染防止のガイドラインを遵守したうえで営業再開をしているところが多いが、「現在でもキャパシティ1000人の会場でも90%のイベントが100人とか200人しか入れてイベントしてない」(MC正社員)という厳しい状況。大規模なイベントについては人数制限(5000人)の緩和が9月初旬になって検討されはじめているが、夏フェスなどの大規模イベントはほぼ99%中止となった。
なお「戦極MCBATTLE」は、5月にZepp DiverCityという大きな会場でのイベント(『U-22 MC BATTLE 2020 TOKYO CHAMPIONSHIP』)を予定していたが、緊急事態宣言中につき中止となっている。チケットは5800円~で、会場のキャパシティは約2400人(スタンディング時)なので、損害の大きさは推して知るべしだ。
「そのときは僕のビジネスパートナーがうまく立ち回ってくれたので、幸い大きな損害を被ることはありませんでした。ただほかのアーティストは、開催中止によってほぼ100%のハコ代を要求された人もいるみたいです」
感染拡大真っ只中の3月22日、さいたまスーパーアリーナで開催されたK-1については、ネット上で非難の声も集まった一方、補償のない状態での自粛要請への違和感を指摘する人も多かった。MC正社員は1人のイベンターとして、K-1の開催をどう見ていたのか。
「さいたまスーパーアリーナのイベントなんて、中止にすれば億単位の損害が出るわけですよ。補償ゼロで中止になれば、主催者や関係者に人生が終わる人が出る額です。K-1については、県知事からも自粛のお願いが出ていましたが、そういう損害額を知ったうえでイベント関係者に『開催をやめてください』と言っていたのか疑問です。イベントを仕事にしている人間としては、『補償もナシで「やめてください」なんてよく言えるな』と思いますよ」
クラブやヒップ・ホップ関係者のコロナ禍での窮状や、感染防止対策を行ったうえでイベントを再開した「戦極MCBATTLE」の近況については、次回以降の記事でまた振り返っていく。
<構成/古澤誠一郎>
戦極MCBATTLE主催。自らもラッパーとしてバトルに参戦していたが、運営を中心に活動するようになり、現在のフリースタイルブームの土台を築く