アポ電強盗、売春強要、名義貸しetc… SNSで拡散する闇バイトの落とし穴

小さな犯罪に加担させて脅迫。奴隷に仕立て上げる

 一方、著書に『老人喰い』などがあるルポライターの鈴木大介氏も、闇バイトの勧誘手口の巧妙化を危惧する一人。昨今のトレンドについてこう語る。 「一度小さな犯罪と思しき行為に加担させられ、それをネタに脅迫されて裏稼業の手伝いをさせられるパターンが増えているように感じます。例えば、一番最初は『池袋駅で受け取ったカバンを新宿駅のロッカーに入れるだけのお仕事。報酬2万円』って話で、なんか怪しいなと思いつつもやってしまうとする。すると終わった後で『お前が運んだのは詐欺のカネだ』『俺らはバックがあるから捕まらない。でもお前は一発実刑だ』と脅しをかけ、『今後も手伝い、よろしく』と言いなりにならざるをえない関係を強要されるといった具合。その後、犯罪に使う銀行口座の名義人をはじめ、さまざまな下働きを強要されることが多い」  変わった手口では、ツイッターでよく見かける現金プレゼントも闇バイトの入り口になっているというから恐ろしい。前出のZ李氏が明かす。 「RTしたら100万円、みたいな企画に応募してくる主婦なんかが標的にされてて、『当選させるから90%現金を戻してくれませんか? 10分で10万円になりますよ』なんてDMで持ちかけるんです。当然、身分証も撮って。それで聞いた口座をまんま振り込め詐欺に使うんです。これだと出し子もいらないし、主婦は旦那にバレるのが怖いから飛ばない。詐欺の省エネ化としては高得点ですが人間としては0点ですね」  跋扈する闇バイトの勧誘手口は、蟻地獄のようだ。相手の手の内を知る以外、防衛策はない。

専門家が指摘する“不敗神話”の嘘。テレグラムで証拠隠滅は不可能

 テレグラムやシグナルといった通信アプリでやり取りを行えば、悪事が明るみに出ない――。そんな悪徒の“不敗神話”は、喧伝されているほど盤石ではないという。ネットワークセキュリティに詳しい神戸大学大学院の森井昌克教授に話を聞いた。 「テレグラムやシグナルは、エンドツーエンドのインスタントメッセージプログラムです。要するに、本部のサーバーを介さず、端末と端末の間のみで文字の暗号化が行われるということ。これは本部でも解読することができないため、極めて秘匿性が高く警察にもバレにくい。よって、犯罪者はこぞってテレグラムやシグナルを利用しています。しかしその実、端末の中にはやり取りの記録が残っている場合があるため、スマホを押収した捜査当局が履歴を復元できる可能性はゼロではありません」  テレグラムならシークレットモードで、シグナルなら標準装備で使えるメッセージ記録消去機能。一見、アプリ上では証拠が隠滅できたように見えても、「暗号を解いた」という記録はハードディスク上にあり、インデックスに残っているという。 「ハードディスク上の記録を完全に消去するためには、履歴を上書きしきるしか術がありません。運よくそれができる場合もありますが、意図的に上書きを行うのは相当なITスキルが求められます」  とはいえ、かろうじて端末にデータが残っていたとしても、その復元作業には膨大な時間と労力が必要なため、警察は情報収集に四苦八苦しているというのが現実だ。 「また、端末を物理で破壊してしまえば、データを掘り出す手立てがなくなってしまうため、証拠は完全になくなります」  現状では法規制も難しく、端末ごとにしかデータが取れないことから、グループの一部を摘発しても蜘蛛の子のように散るすべての残党を捕らえるのは困難を極める。  本来、テレグラムやシグナルはプライバシー保護の観点から民主主義の象徴だった。しかし、こうした通信アプリは今や犯罪者たちの温床となっている。この現状をいかにして打破していくのか。早急な対策が求められている。 【Z李氏】 地下経済やアングラ事情、ギャンブルに精通。「新宿租界」オーナー。座右の銘は「給我一個機会、譲我在再一次証明自己」 【鈴木大介氏】 犯罪や貧困をテーマに、取材を続けるルポライター。『老人喰い』『振り込め犯罪結社』等、著書多数。小説、漫画の原作も手がける。 【森井昌克氏】 大阪府出身。神戸大学大学院工学研究科教授。専攻は情報通信工学だが、近年はその利用に絡む社会問題等の研究も行っている。 <取材・文/櫻井一樹 片波 誠>
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