東日本大震災・原子力伝承館(双葉町)の語り部、大谷慶一さん
伝承館の語り部の一人、大谷慶一氏(いわき市在住)は、『朝日新聞』が報じた語り部活動マニュアルを差し出し、「
『特定の団体、個人または他施設への批判・誹謗中傷等』を『公演内容に含めないようにお願いします』」と書いてあることを示した後、福島県民の思いを次のように語った。
「私たち福島県民はここに住んでいますから『原発事故は人災』『東電に責任はある』と思っています。私は、語り部の講演で地方出張をするのですが、『原発反対』『原発廃炉』とはあまり聞かない。だからこそ福島県民は、原発事故の被害を受けた住民として、もっと発信をしないといけない。
『原子力 明るい未来のエネルギー』の標語を作った人が(開館式の9月)20日に来ていました。その人が言ったのは『写真ではなくて現物を飾ってほしかった』と。あの頃はみんな原発推進の雰囲気だったが、あの人にほしいコメントは『あの時にこんな標語を作って、ものすごく恥ずかしい思いをしています』だったが、
そんなことは一言も口にしなかった。
ポスターは、原発事故を招いてしまった反省材料として残さないといけないのに、
標語を作った本人も無反省で、写真を展示した人も反省を込めた解説文をつけていないのです。
伝承館にはずっと違和感があった。この違和感は何なのか。
展示物はあるが、そこに(被災者の)感情、情念がないのです。
故郷喪失がなぜ起きたのか。どこが間違っていたのかという思いが全然伝わって来ない。
福島県にある施設なのだから本来は、原発ゼロをもっとアピールしてもいいのではないか。県民のほとんどは原発廃炉(ゼロ)志向です。福島の悲劇を二度と繰り返さないために全国的にも原発ゼロを進めることを発信するのが伝承館のはずだと思うのです」
9月26日に初の地方視察として福島訪問をした菅首相
原発推進の安倍政権に忖度して産み落とされたような伝承館は、被災者の語り部が原発事故における国や東電の責任を語れない“隠蔽改竄館”と化していたのだ。そんな福島県民が違和感を抱く問題施設を絶賛するようでは、菅首相は安倍政権の原発推進政策を引き継ぐと宣言しているに等しい。
『毎日新聞』の倉重氏は「原発政策、転換の好機?」と小泉氏に問い掛けて、菅政権での原発政策転換の可能性があるかのような印象を与えていたが、菅首相の福島訪問を取材した筆者には「非現実的な絵空事」にしか見えないのだ。
福島第一原発事故における国の責任を認めた仙台高裁判決への対応を見ても、菅政権は第三次安倍政権にすぎないことが実感できる。平沢大臣は10月6日の会見で「判決は個別の案件ですからコメントは差し控えたいと思います」としか答えなかった。
福島県や隣県に住んでいた約3600人が起こした集団訴訟の合言葉は、「生業を返せ、地域を返せ!」。生業訴訟と呼ばれるのはこのためだが、その思いは先の大谷氏と同様、「原発事故の苦しみを他県の人たちに味わってもらいたくない」「日本全体で原発ゼロを実現してほしい」というものだ。
しかし平沢復興大臣は、高裁で初めて国の責任を認めた仙台高裁判決について何も語らなかった。国や東電の責任を語らせない伝承館を絶賛する一方、国の責任を認めた仙台高裁判決にノーコメントを通したのだ。
「菅政権(首相)は脱原発を望む福島県民の思いを実現する気配すらない」「原発政策転換の可能性はゼロに限りなく近い」というのが現時点での筆者の取材実感だ。第三次安倍政権のような菅政権に期待しても、裏切られるのが落ちとしか思えないのだ。
<文・写真/横田一>