日本学術会議問題。官邸前で可視化される法治国家の崩壊

バッジをつけた国会議員にまで誰何する

 2日後の10月5日。私は2度目の取材に赴いた。  この日は、菅野氏がハンストをしている地点のすぐ目の前の地下鉄出口から出た。誰にも邪魔されずに現場に到着することができた。  しかし警官による嫌がらせは続いていた。日中に参議院議員の石垣のりこ氏が菅野氏のところに立ち寄った。その際、警官の一人が石垣氏に名前を尋ねた。 「国会議員が偉いだなんて全く思わないが、国会周辺の警官が国会周辺の路上でバッジつけた人間に誰何(すいか)するのは無能すぎやしないか」  菅野氏や支援者たちから非難の声があがった。
石垣のりこ参院議員(左)に氏名を尋ねる警察官

石垣のりこ参院議員(左)に氏名を尋ねる警察官

1人で抗議活動の女性に職質や荷物検査も

 3度目の取材は10月7日。地下鉄駅を出てから菅野氏のところに向かタイミングで警官3人に囲まれた。「ここで座っているのでお声がけさせていただいたんです。どういったご関係ですか」というのだ。  官邸周辺の警官にすっかり嫌気が差していたので、「官邸前に行く。取材だ。声をかけるのは勝手やればいい。だが答えない」とぞんざいに受け答えした。 警官「いつまでこちらにいらっしゃるんですか」 「いま移動しようとしていたのをあんたらに止められてるんですけど」  4度目の取材に行った10月9日も、再び内閣府下交差点で警官たちに取り囲まれた。毎回同じ会話なので割愛する。  官邸前では菅野氏とは別の他のグループによる抗議集会も行われている。また、個人で静かにプラカードを掲げ抗議を表明し続けている人たちもいる。台風のさなかでも、その姿が消えることはなかった。  4度目の取材の際、雨の中、1人でプラカードを掲げていた女性からこう聞かされた。 「昨日、この場で警官から職務質問されて荷物検査もされた。プラカードを作るためのガムテープとカッターナイフがカバンに入っていたため、警官20人くらいに取り囲まれ銃刀法違反だと言われ麹町署への同行を求められた。知り合いの弁護士に連絡したら、正当な理由がある分には問題ないと言われたが、弁護士にカッターナイフを預けるということで、麹町署に連れて行かれずに済んだ。ちょうど菅野さんも支援者も席を外していて、近くに誰もいなかったので助けを求めることもできなかった」  この話を聞かされた直後、警官が彼女に話しかけてきた。 警官「昨日カッターナイフを持っていた方ですよね。申し訳ありませんが荷物を見せてもらっていいですか」  女性はおとなしく従い、カバンから何も出てこないことを確かめて警官たちは女性から離れた。
女性のカバンをまさぐる警察官

女性のカバンをまさぐる警察官

 これだけ官邸前で警官と揉めまくっている私ですら、荷物検査はされていない。しかし、官邸と道を挟んで反対側の歩道で静かにプラカードを掲げているだけの女性は2度も男性警官に荷物をまさぐられた。  歩道や横断歩道での通行の妨害職務質問や荷物検査。1つ1つは実に些細なことばかりだ。しかし官邸周辺では、抗議活動に関係している(と警察が勝手にみなした)人間にだけ、これらが執拗に繰り返される抵抗しにくそうな相手には、さらに踏み込んでプライバシーすら蔑ろにする。法的根拠など関係がない。口先で「協力のお願い」という言葉を用いているだけの、事実上の強制だ。  以前も本誌で記事にした通り、警察とは、もともとそういう組織だ。  しかし今このタイミング改めて官邸前で警察の行動に触れると、より深刻な光景に見えてくる。政権のトップと暴力装置がすでに法治を崩壊させた社会という構図がそこにあるからだ。  いま官邸前には、行政が法律を守らない状態にある国家の気持ち悪さが凝縮されている。 <取材・文・撮影/藤倉善郎>
ふじくらよしろう●やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)
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