日本学術会議任命拒否は「学問の自由」だけの問題ではない。法治主義や民主主義そのものを壊す蛮行

行政法では、理由を示せない行政処分はない

取材を受ける岡田教授

取材を受ける岡田教授

 岡田教授ら6人に対する任命拒否について、菅首相も加藤勝信官房長官も「俯瞰的、総合的に判断した」と煙に巻くだけで具体的な法的根拠を示せていない。岡田教授は「行政法では、理由を示せない行政処分はない。理由を説明できないなら処分してはいけないのです」と強調する。  具体的な理由を示さない任命拒否は、憲法違反の疑いがある。実際、「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない」とする憲法第31条は刑事罰だけでなく、行政処分も対象となるとの判例があるからだ。

これは、自由民主主義そのもの危機

官邸前で学者たちが抗議

官邸前で学者たちが抗議

 官邸前抗議を呼びかけた小原隆治・早稲田大学教授(政治学)は「(菅政権のやりかたは)法治主義を壊す、多数を握っているなら何をやってもいいんだという考え方。学問の自由の危機というだけでなく、もっと大きな自由民主主義そのもの危機」と訴えた。  菅政権による任命拒否に対しては、菅首相の母校である法政大学の田中優子総長や『万引き家族』監督の是枝裕和さんら22人の映画人など、各界から次々に批判の声があがり、インターネット署名サイト「Change.org」での任命拒否撤回を求める署名はすでに10万筆以上を集めている。  加藤官房長官は、10月6日の会見で「会員手当として総額約4500万円、同会議の事務局の常勤職員50人に、人件費として約3億9000万円支払った」とわざわざアピールした。 「政府が経費を拠出しているのだから、人事権もあるのだ」と言わんばかりだ。しかし、この件の核心は今回の任命拒否にしっかりとした法的根拠があるか否かということ。その核心から論点をすり替えることは、すでに菅政権のやり方がおかしいことを自ら認めているようなもの。むしろ、そうした不誠実さが火に油を注ぐことになるだろう。 <文・写真/志葉玲>
戦争と平和、環境、人権etcをテーマに活動するフリージャーナリスト。著書に『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、共著に『原発依存国家』(扶桑社)、 監修書に『自衛隊イラク日報』(柏書房)など。
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