TOSHIの「洗脳」で話題になったホームオブハートの今。TOSHI脱会後も、名前を変えて活動

◆シリーズ「風化」するカルト問題・第2回)
X JAPANのTOSHI(自己啓発セミナーから脱会した2010年の記者会見)

X JAPANのTOSHI(自己啓発セミナーから脱会した2010年の記者会見)

 ロックバンド「X JAPAN」のヴォーカル・TOSHI(現Toshl)がのめり込み、X JAPAN解散の原因にもなった自己啓発セミナー団体レムリアアイランドレコード。後に「ホームオブハート(HOH)」と名称を変え、2004年に栃木県那須町にあった共同生活用の施設等から児童5人が保護される「児童虐待問題」を引き起こし、高額なセミナー料金等が元で元受講生らから民事訴訟を起こされた。2010年にTOSHIが脱会し、元受講生らとの裁判は和解が成立。その後はメディアに報じられることはほとんどなくなったが、現在は関西に拠点を移し、実質リーダーのMASAYA(倉渕透=倉渕雅也)氏はMARTHと芸名を改め、現在もセミナーや健康グッズ販売、ヒーリング音楽販売、リゾート会員権販売などを続けている。

ライフスペースと同じく自己啓発セミナーがカルト化

 HOHは前回第1回記事で紹介したライフスペースと同様に、「自己啓発セミナー」団体がカルト化した事例だ。自己啓発セミナーの歴史については前回記事を参照してほしいが、ライフスペースもHOHもともに、1977年に日本で設立された「ライフ・ダイナミックス」を模倣したセミナー団体群の1つだ。  HOHの場合は、自己啓発セミナーのほか、MASAYA作の楽曲を用いた音楽事業や、リゾート施設の会員権ビジネス、岩盤浴器具販売など多角的なビジネスを展開してきた。TOSHIがこの団体にのめり込み1997年にX JAPANは解散。TOSHIはソロ活動でMASAYA氏の楽曲を歌うようになる。  当時、『週刊現代』が、TOSHIがセミナー団体に洗脳されていると報じ、テレビのワイドショーもTOSHIを追いかけた。テレビカメラに向かってTOSHIは「あの雑誌は信じないでください! 全部、デタラメです!」と言い切り、MASAYA氏とともにワイドショーにスタジオ出演してHOHやMASAYA氏を擁護した。  テレビでは、MASAYA氏が「2000年に人類の90%が死ぬ」「今人類に必要なのは壁抜けと空中浮遊」などとわけのわからないことを口走るセミナーのVTRも流された。  その頃のHOHは「レムリアアイランドレコード」を名乗り都内を拠点として活動していたが、2001年にHOHと改称し栃木県那須町に移転。同町に複数の施設を構えて、コアなメンバーが共同生活に入った。  HOHのセミナーの原型となった「ライフ・ダイナミックス」のセミナーは、予言や超能力、宗教的なメッセージなどは扱わない。飽くまでも「心理療法」の一種を標榜するレクチャーや実習を通して、「本当の自分を見つける」などと称するものだ。それはそれで効果が疑問視されており、また数十万円の高額な料金がかかる点や、受講生の精神状態を高揚させ無償の勧誘活動に奔走させる点で80年代に悪徳商法のひとつとして社会問題化した。しかしそれでも、HOHのように人類滅亡予言や超能力めいた内容は登場しないし、基本コースである3種類のセミナーを受講するだけだ。HOHのように何度も繰り返しセミナーを受講しながら共同生活するなどということはない。

悪用された心理療法プログラム

 そもそも80~90年代に社会問題化した「自己啓発セミナー」というビジネスは、心理療法のテクニックをマルチ商法販売員の研修に流用した中で誕生した、ある種の「心理療法の悪徳商法化」だ。しかしHOHは、さらにこれを悪用した。  たとえばライフ・ダイナミックスのプログラムには「フィードバック」というものがある。受講生の発言等について、他の受講生たちが感想や意見を言うものだ。これを模倣したセミナー会社ことに異なるが否定的な内容で受講生を罵倒することを「ネガティブ・フィードバック」と呼び、肯定的な内容で褒めちぎることを「ポジティブ・フィードバック」と呼ぶこともある。  いずれも、自分が他者からどう見られているかを「フィードバック」してもらうことで自分を見つめ直すという名目で行われる。しかし実際には、受講生の感情を揺さぶり、他の実習も含めた数日間のセミナーを終えた頃に「辛かったが感動的な体験」を演出する側面もある。  これがHOHでは、施設内で行われるセミナーの最中だけではなく、電話やメールでの恫喝や罵倒も「フィードバック」として繰り返された。また後にHOHを相手取って被害者が起こした民事訴訟の判決によると、「マネートレーニング」と称するセミナーでMASAYA氏は受講生に対して「お金はどんどん借りるほうがいい。借りるのがいけないというのはネットの間違った観念だ」などと借金を奨励し、夜中の2時、3時まで、受講生の金銭感覚を罵倒する「フィードバック」を繰り返したという。  もはや「自己啓発セミナーの実習」ですらなく、恐喝と言っても過言ではないかもしれない。これは飽くまでも一例に過ぎず、受講生たちはこういった調子で終始罵倒され、時には暴力を伴うこともあったという。TOSHIがHOHで「化け物アゴ男」あるいは「アゴ」と呼ばれていたことは一般メディアでも報じられているが、これも「フィードバック」と称する罵倒の延長だ。  従来の自己啓発セミナーでも借金が奨励されることはある。しかしそれは主に、勧誘を受けた者が「カネがない」といった理由で受講を拒んだ場合などに「自分への投資」等の物言いでカネを工面させる類いのやりとりだ。すでにカネを払ってセミナーを受講している最中の受講生に、さらなる借金をさせるためのセミナーなど聞いたことがない。しかも従来の自己啓発セミナーの料金は総額で20~30万円程度。しかし上記のHOH被害者は1000万円以上をHOHから搾り取られた。  従来の自己啓発セミナーに比べてHOHはオカルト的な側面を強めていった。しかしそれだけではなく、受講生への恫喝や金銭収奪の度合いも従来の自己啓発セミナーとは比較にならない深刻さを帯びていった。
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児童相談所が児童5人を保護、多数の訴訟へ
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