「私たちは存在するし、バケモノではない」バイセクシュアルが直面する差別
その時、クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」が流れていた。
「さっきの映画みたいに同性同士でキスしたいなんて思ったことないわ。みちるはどうなの?」と緊張した面持ちで母が訊いた。
「あるよ」と私は答えた。「私、バイセクシュアルなんだ」
母は黙って台所に向かった。すすり泣くような声が聞こえた。
先週はバイセクシュアル・ウィークだった。1999年から始まったもので、バイセクシュアル・アイコンとして有名なクイーンのボーカル、フレディ・マーキュリーの誕生日が9月であることから9月23日がバイセクシュアル・デイとされているためだ。
そこで、この記事ではバイセクシュアルが直面する差別という問題を取り上げたい。バイセクシュアルである私自身の体験に加え、バイセクシュアルの友人たちにも話を聞いた。
バイセクシュアルに対する差別は、バイセクシュアルのステレオタイプ化とバイセクシュアルの消去の2つに大別することができる。
バイセクシュアルに対しては、世の中でのロールモデルや創作物での表象が少ないことから、偏狭なステレオタイプ化がされることが多い。ここにはその一部の例を集めた。
バイセクシュアルへのステレオタイプのひとつに「彼女も彼氏も両方必要なんでしょ?」「恋愛が2倍できていいね」というものがある。女性と付き合っているときでも、男性と性行為したいと思うのではないか、逆もあるのではないか、というのがそのステレオタイプだ。
また、さらにそこから派生して、「性的に奔放なんでしょ?」「絶倫なんでしょ?」「性経験が豊富なんでしょ?」といったステレオタイプもある。この背景には、バイセクシュアルは男性と女性両方との性経験があることを前提とする考え方があり、そのためには多くの性経験を持っているに違いないという決めつけがある。
しかしこれらは間違っている場合も多い。そもそも男性と女性両方との性経験がないバイセクシュアルもいる(異性との性経験がない異性愛者がいるように)。ただし、こういったステレオタイプが当てはまる人もいるし、当てはまることは決して悪いことではない。複数人と恋愛をするポリアモリーという関係性の持ち方もあり、それは否定されるべきものではない。ただし、それは端的にバイセクシュアルとは別の概念なのである。
そもそも一口にバイセクシュアルといっても多様性がある。性的に複数の性別に惹かれるという点が共通しているだけで、そのセクシュアリティは様々だ。それを勝手な決めつけで分かったような気にならないでほしい。
“絶倫のバイセクシャルに変身し全人類と愛し合いたい” (枡野浩一『ハッピーロンリーウォーリーソング』)
こんな有名な短歌がある。どうもこの歌人にとって、「絶倫のバイセクシャル」は変身するにはもってこいのバケモノであるようだ。
「私たちの関係にスパイスを加えてくれるバイセクシュアル女性を募集中」
こうした書き込みがTinderなどに見られることがある。
上記のようなステレオタイプから派生して、「ユニコーンハンティング」というものが行われている。「ユニコーンハンティング」とは、異性愛のカップルが関係をオープンにし、彼らの性的関係に加わる相手をバイセクシュアル女性のみに絞って探すことだ。バイセクシュアル女性は「性的に奔放」というイメージから、3Pの相手として狙いを定めるのである。「女と女との浮気は浮気ではない」という同性愛の軽視も、その背景にはある。
こうして、バイセクシュアル女性は単にカップルの関係にスパイスを加えるモノのように扱われてしまうのである。
バイセクシュアルのステレオタイプ化
ユニコーンをハントする?
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