「内容以外の要素が勝敗を左右する」Lick-GがMCバトルを引退した理由<ダメリーマン成り上がり道 #35>

ダンジョン制覇は「できて当然」

正社員:「じゃあ、いまYou Tubeに上がっているLick-Gのバトルでは、『自分のなかでも負けた』と感じてる試合はないわけ?」 Lick-G:ないですね絶対にないです正社員:「大丈夫? Lick-Gに勝ったヤツも読むかもしれないけど(笑)」 Lick-G:「全然大丈夫です。本当にそう思ってるから」 正社員:「じゃあ、いろいろな大会での負けも納得いってないし、『フリースタイルダンジョン』の制覇も『できて当然』って思ってるんだ」 Lick-G:「そうですね。『フリースタイルダンジョン』については、これまでのMCバトルで感じてた違和感とか、納得いかなかった思いが晴らせたので、そこはよかったなと思ってます。これ以上ない形で終われましたし」 正社員:「『もうバトルはいいや』ってなったというか」 Lick-G:「『フリースタイルダンジョン』で勝った直後は、「これからは他のバトルでも納得できる結果が出せるんじゃないか」とも思ったんですけど、その直後に出た戦極の大会ではまた負けたんですよ。それも自分が客観的に判断した結果とは違うものだったし、『バトルはやっぱりギャンブルなんだな』と。そういう不安定な場所に身を置くよりは、音源をきちんと作って足元を固めたいと思いました」

人の力を借りないぶん、「音楽の底力」が必要に

正社員:「レーベルからの誘いがあったのはいつ頃だったの?」 Lick-G:「第9回の『高校生ラップ選手権』(2016年4月18日)で準優勝する直前ぐらいですね」 正社員:「そこでKEN THE 390(レーベル『DREAM BOY』主宰)から話があったわけだ」 Lick-G:「そうですね。レーベル所属を発表する直前に大腸ポリープで数週間入院したりして、割とバタバタしたんですが、無事ファーストアルバム『Trainspotting』(2017年2月)を出して、そのあとでレーベルを辞めて」 正社員:「そうやって音源を出していて、『バトルのファンって俺の音源までチェックするんだな』って思った? それとも『やっぱりバトルのファンはバトルのファンだな』って思ってる? よく『MCバトルを好きな人は音源(曲)を聴かない』みたいな話があるじゃん」 Lick-G:「バトルでファンになってくれた人を、自分の音源のファンにすることもある程度はできたかな、と思ってます。あとはその先をどう広げるかですよね」 正社員:「レーベルに所属して作品を出して、フリースタイルダンジョンで優勝して……という流れは自分の理想通りだったの? それとも『もっとこうしたかった』みたいな気持ちもある?」 Lick-G:「レーベルに入って1枚目のアルバムを出して、それからレーベルを辞めて思ったのは、『結局は誰かの力を借りて成り立つ活動をしていたんだな』ということ。それは、バトルに出ていたときにも感じていたことです。でも、自分のしたことの結果に納得するためには、やっぱり人の力に頼るべきじゃない。自分の音源の力だけで結果を残したいなと思いました」 正社員:「その気持が今も続いてるわけだ」 Lick-G:「人の力を借りないぶん、遠回りになることもあるかもしれないですけど、そこで音楽の底力がより必要になってくるのかなと。あと今は、それこそネットも発達していますし、以前よりはレーベルに頼らずに成功できる動線も増えている。あとは本当に自分がしっかりやっていくだけですね」 正社員:「なるほどね」 Lick-G:「でもそういうことも、レーベルに入ったからこそ気づけたことだし、今の結論は『自分は自分でやるというのがいいかな』という感じです」

モテやお金への欲が見えない「音楽オタク」

正社員:「でもLick-Gって変わっているよね。だって『モテたい』とか『金持ちになりたい』とか特に思ってないでしょ?」 Lick-G:「あまりないですね。昔から僕を見てていて、そう感じてましたか?」 正社員:「昔は『そういう気持ちもあるのかな』って思って見てたけど、途中からは『そういうことに全然興味ないんだな』って思ったよ。ラップをやってる若いコには、『モテたい』『金持ちになりたい』『人気者になりたいみたいな人がすげえ多いと思うんだけど、Lick-Gはそうじゃない。むしろヒップホップオタクだし、音楽オタクだと思う。だから音楽のことを勉強してるし、『みんなに聴かれるものを作る』というより、『自分の納得するものを作りたい』『納得できないものは出したくない』みたいな気持ちがあるのかなと」 Lick-G:「それはありますね」 正社員:自分を曲げてまで売れたいとか、そういう感じじゃないよね」 Lick-G:「そうですね。バトルでもそうやって自分を貫いた結果、おかしな形で負けちゃったところもあると思います。『納得のいかないスタイルで勝つのだけは避けたい』みたいな気持ちはあるので」 ――正社員さんはLick-Gさんのどのあたりを『音楽オタク』だと思うんですか? 正社員:「俺はLick-G が14歳のころからずっと成長を見ているんですよね。最初に会ったころはまだ背も低くて、声変わりもする前だったんですけど、名前が『Lick-G』になった辺りから変わったかな。最初は『そんなカッコつけた名前つけてんじゃねえよ』って言ったんだけど、そこからラップのスタイルもファッションも、どんどん自分らしさが出てきた。その軸には『ヒップホップが好きなんだ』『ヒップホップはこうあるべきだ』という気持ちも見えたし、そこから音楽に対してストイックに成長していった。それこそバトルに出るのをやめちゃうのもストイックじゃないですか」 <構成・撮影/古澤誠一郎> 【Lick-G(リック・ジー)】 21歳の神奈川県逗子市出身のヒップホップアーティスト。中学時代から楽曲制作を始め、。2018年には自主レーベルZenknowを立ち上げ。2019年にはYouTube Japanがブレイクが期待されるアーティストを紹介する「Artists to Watch」にも選出された。今年は海外プロダクションのプロジェクトにも参加。最新情報はTwitter@lickgzなど各種SNSでチェック!
戦極MCBATTLE主催。自らもラッパーとしてバトルに参戦していたが、運営を中心に活動するようになり、現在のフリースタイルブームの土台を築く
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