ホワイトハウスのタスクフォース採用の統計が導く、日本の「秋の波」予測

第二波をまともな対策で封じた豪州・NZと、無為無策の日本

 ここで南半球の謎々効果国は同であったか見てみましょう。これは「秋の波」がどういう挙動を取るかの極めて良い先行事例となります。言うまでもなく豪州とニュージーランドは、南半球のために6−9月は冬季に該当します。
豪州、ニュージーランド、日本における百万人あたり新規感染者数の推移(7日移動平均 線形ppm)

豪州、ニュージーランド、日本における百万人あたり新規感染者数の推移(7日移動平均 線形ppm)
6月時点でのベースラインは、日本と豪州が0.4ppm前後、ニュージーランドが0.00-0.001ppmであった。
現時点でのベースラインは、日本が4ppm、豪州が1ppm、ニュージーランドが0.5ppmである。
豪州、ニュージーランド共にベースラインは更に下げる傾向にあるが、本邦は下げ止まり、漸増基調にある。Our World in DATAより

 豪州とニュージーランドでは6月のベースラインはそれぞれ0.4ppmと0.01ppmでした。本邦は豪州と同水準の0.4ppmでした。  豪州海外(英連邦)からの持ち込みと、経済再開、低所得層の見落とし、隔離の不徹底から六月に「秋の波」(冬の波)が発生し、第二波パンデミックとなりました。しかし、豪州では徹底した大量PCR検査と追跡、隔離を行い、更にヴィクトリア州のロックダウンと州境の封鎖によって他州への拡大を防ぎつつ制圧を進めた結果、既に収束しつつあり、ベースラインも5月の水準に戻る見込みです。  ニュージーランドは、旧西側先進国では最も理想的なCOVID-19パンデミック対策を実施してきたとして尊敬されています。8月に海外からの持ち込みで小さな波が発生しましたが、3日間ロックダウンをはじめとして矢継ぎ早の対策を行い、「終息」させています。ベースラインは、0.5ppm程度と7月の水準に戻っています。  本邦は、今回も偶然と市民の自粛の積み重ねで収束しましたが、ベースラインは欧州6月並みの4ppm前後に上昇し、加えて「秋の波」と思われる第三の波を迎えていると思われます。トフラーの第三の波から40年、とんでもない別の第三の波を自ら招いている可能性があります。本邦の際立った特徴は、検査も何もしたくない欠陥統計国策ノーガードです。

世界の「科学的予測」が導く、日本の「秋の波」

 世界では、きちんとした統計が公表されており、多くの国では本邦より遙かに詳細で信用できます。そして、それらの統計をもとにパンデミックの推移の短期、中期、長期予測が行われており、公開されています。筆者はこれらのうち、IHME(保健指標評価研究所) , YYG(Youyang Gu氏個人による) , LANL(ロスアラモス国立研究所) , ICL(インペリアルカレッジロンドン) の四つの統計分析と予測を主として参考にしています。  詳細は後日論述しますが、それぞれの予測手法、考え方には大きな違いがあり、結果として予測も大きく異なります。これらの中で「秋の波」を明示的に取り込み、予測しているのはIHMEとYYGであり、どちらも3〜4ヶ月先までの長期予測をしています。  IHMEは、様々な補助データを取り込んだ上で死亡、感染者数統計に基づく予測であり、基本はSEIRモデル(感染症数理モデル)です。IHMEの予測は、ホワイトハウス・新型コロナウイルス対策タスクフォースに採用され、CNN等で日常的に報道されるために目にしたことのある人は本邦でも多いです。  YYGは、補助データ無し、死亡数統計のみの機械学習AI予測であり、基本はSEIRモデルです。YYGは、オープンソースでシンプル、軽量、ノートパソコンでも動くという事が謳い文句です。Youyang Gu氏は、まだ20台後半のMIT(マサチューセッツ工科大学)卒のエンジニアですが、予測モデルはホワイトハウス・新型コロナウイルス対策タスクフォースに採用されたものの一つで、評価は高いとのことです。  IHMEもYYGも「秋の波」を経験的に予測に取り込んだ半経験的手法であり、YYGは、9月以降の実効再生産数を日毎に上方修正(補正定数の加算)する手法をとっています。  今回は最後にIHMEによる本邦についての執筆時点で最新の予測(2020/09/18更新)ご紹介します。
IHMEによる日本の2020/01/01迄の長期予測(2020/09/18更新)

IHMEによる日本の2020/01/01迄の長期予測(2020/09/18更新)
上から累計死者数、日毎死者数、推定総感染者数
網目は95%不確実性区間(UI)
IHMEより

IHMEによる日本の2020/01/01迄の長期予測(2020/09/18更新)

IHMEによる日本の2020/01/01迄の長期予測(2020/09/18更新)
上から医療資源需要、マスク着用率、社会的距離
網目は95%不確実性区間(UI)
IHMEより

 IHMEによれば、日本は現状のままでは、2021/01/01迄に39,447名が死亡すると予測されています。ロックダウンなどの強力な介入をしない場合、日毎死者数は、2千8百人/日、推定される日毎感染者数は、86万人/日、と破滅的な数値が予測されています。この予測は大幅な下方修正後のもので、9/4時点での予測は2021/01/01迄に12万人が死亡するというものでした。  IHMEによる2020/09/18更新の予測では、極めて悲惨な近未来を予測していますが、Youyang Gu(YYG)など秋の波を取り入れながらも楽観的な予測をしている例もあります。またIHMEの予測は、かつては楽観的に過ぎ、6月以降はモデルを全面的に差し替え、悲観的に振れたという批判もあります。  また本邦のように統計の信頼性が低い場合、予測も大きくぶれるため、信頼区間(CI)に相当する不確実性区間(UI)が大きくなります。  IHMEは、発表時点の一週間前までの統計を用いて予測をしていますが、大きな統計の変化(トレンドの変化)が生じた場合その約4週間後に予測が大きく変化します。現在、本邦については8月からの第二波減衰過程が遅れて反映されていますので9月一杯は下方修正が続き、「秋の波」の撤回もあり得ます。  こういった予測は、予知や予言と異なり科学的根拠に基づいたものです。従って、予測の変化や誤差にも理由があります。  大切なことは、科学的根拠に基づいた予測は、パンデミック対策においてたいへんに有力なものであり、400前後の予測が各国で行われていますが、本邦ではそれが市民に見えません。  西浦博士が発表した42万人死亡予測がその片鱗*なのですが、合衆国や英国との違いは、多額の税金で行われている研究成果としての予測が全く市民の目の前にだされないことと、片鱗をだしても予言扱い外れれば学者のへの制裁を主張する頭の底抜けにおかしな扇動政治業者がメデイアに現れるという極めて反科学的な実態があります**。また西浦氏自身もSNSでの当該発言記録を消しているという無責任な行動が指摘されています。 〈*このままでは新型コロナでこれだけの死亡者が出る可能性も。今わかる数値で数学教育者が推定してみた 清史弘 2020/05/11 ハーバー・ビジネス・オンライン〉 〈**吉村知事語る「なぜ西浦モデルを誰も批判しないのか」 “42万人死亡”検証の必要性問う 2020/07/01 デイリー新潮
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IHME予測の「下方修正」
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