東京都江東区で配布された3500万円分の冷感タオル。隠された3つの重大疑惑

ほとんどの区民が知らない、危険で疑惑だらけの事業

冷感タオル(実物)

冷感タオル(実物)

 今年の8月は本当に暑かったですね。しかも、新型コロナウイルス感染防止のために多くの方がマスクを着用されていて、例年以上に熱中症の危険性が高まっていました。  そんな8月、東京都江東区に住む75歳以上の高齢者全員のもとに1枚の「冷感タオル」が届けられました。  この冷感タオル配布は「高齢者のフレイル予防のために」と、江東区が3500万円の補正予算を組み実施した事業。フレイルとは「虚弱」という意味で、高齢者の身体的機能や認知機能の低下です。  ただ、この冷感タオル配布事業、調べれば調べる程に疑惑は深まっていくばかりです。  対象者が75歳以上の高齢者の方だけですので、江東区民でも存在すら知らない人がたくさんいます。そして知っている人でも「税金の無駄っぽいけどたいした額じゃないし、危ないものを配った訳でもないんだから、そんなに噛みつくような話なの?」という反応が多いです。  だからこそ知ってほしいのです。この事業がいかに危険な熱中症対策であったかを。そして、その背後に見え隠れする重大な3つの疑惑を。

冷感タオルは熱中症予防には役立たない

熱中症イメージ 江東区の冷感タオル配布事業は6月30日に区議会で審議・可決された「令和2年度一般会計補正予算(第4号)」で唐突に登場しました。 「区民生活を支える取り組み」という項目で、「75歳以上の高齢者に冷感タオルを配布(3543万円8千円)」「フレイル予防につながる外出のきっかけづくりとして、75歳以上の高齢者全員に冷感タオルを配布」と記載されていました。  筆者は即座に「ありえない」と思いました。フレイル予防の基本は「栄養」「運動」「人とのつながり」の3つです。確かに運動のために散歩を促す事はわかりますが、そこでなぜ冷感タオルが出てくるのかまったく理解できませんでした。  これに対して、事業を担当した長寿応援課は「熱中症予防も兼ねて」と説明しています。  これをまとめると「75歳以上の高齢者は身体・認知機能の低下が心配なので、真夏の東京を冷感タオルをつけて散歩して、熱中症に耐えられる体力をつけなさい」ということになります。  これはまったくの見当違いです。熱中症対策の基本は「こまめな水分補給」「気温が高い時は外出を控える」「室内ではエアコンをつける」ということです。フレイル予防と熱中症予防は別物どころか、矛盾さえします。  そして冷感タオルとはまさしく「冷たさを感じる」だけのタオルです。さまざまな種類がありますが、基本的にはポリエステルやナイロンなど速乾性が高い素材で、表面に細かい穴や窪みをつけるなどの工夫を施して揮発性を高めたタオルです。このタオルを水に浸すとどんどん水分が蒸発していき、気化熱が奪われていくので涼しく感じるのです。  冷感タオルを常温の水に浸して絞ると、温度が15~16℃程度まで下がります。確かに冷たくて気持ち良いんです。でもそれだけです。「冷たさを感じる」タオルであって「体を冷やす」タオルではありません。
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審議中に事実上の随意契約で発注先が決まっていた!?
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