『最強のふたり』の再来? 自閉症ケア施設と子どもたちを守る戦いを描く『スペシャルズ!』

© 2019 ADNP - TEN CINÉMA - GAUMONT - TF1 FILMS PRODUCTION - BELGA PRODUCTIONS - QUAD+TEN

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 9月11日より、『スペシャルズ! 政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話』が公開されている。  本作はフランス国民の3人に1人が観たほどの大ヒットとなった『最強のふたり』(2011)のエリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュの監督コンビの最新作。今作も、実在する2人の人物をモデルとした、ユーモアもたっぷりで、今を生きる私たちが勇気をもらえる素晴らしい映画に仕上がっていた。その魅力について解説していこう。

「他人のために生きる」人の尊さを描く

 自閉症児のケア施設「正義の声」の運営者ブリュノは朝から大忙しだった。電車の非常ベルを鳴らして鉄道警察に取り押さえられた青年の元へ駆けつけたり、頭突き防止のヘッドギアをつけた少年の一時外出の介助を頼まれたりもする。彼らを献身的にサポートし続けるブリュノだったが、施設に監査局の調査が入ることを告げられる。実際に「正義の声」は赤字経営かつ無認可で、叩かれれば山のように埃が出る状態だった。  重要なのは、施設の運営者のブリュノが「法律の順守より子どもたちの幸せを最優先にしていた」ことと、「他で見放された子どもたちを受け入れていた」事実だ。例えば、ブリュノは自閉症の青年の勤め先を探すために、1万通ものメールを送り続けた。重度の症状のため6か所の施設に受け入れを断られ続けた子どもでさえも、ブリュノは「何とかする」と口にして面倒を見ようとしていた。  その施設では、ドロップアウトした若者たちも支援員として働いていた。ブリュノの友人のマリクは、ドロップアウトした人たちを社会復帰させる団体を運営しており、彼らをたびたび「正義の声」に派遣していたのだ。重度の症状を持つ少年の介助を行うのは、遅刻ばかりでやる気のない新人の青年であったのだが、その2人の間にはいつしか信頼感も芽生えていく。何重にも、施設は社会からこぼれた人々の受け皿にもなっていた。
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 そうしたブリュノの献身的な行い、施設の社会的な貢献に関係なく、調査員からは客観的な状況が問題として扱われてしまう。例えば、「大半の支援員が無資格ではないか?」と詰め寄られるのだ。そんな調査員に対し、支援を受けている青年の母親はいかにブリュノが親身で熱心かを力説し、マリクは「資格があれば暴れる子どもを抑えられるのか」と鼻で笑い、緊急地域医療センターの医師は「3か月で退院しなければならない患者を無条件で受け入れてくれるのは、心と信念で働いているブリュノだけだ」とも証言する。  ブリュノの施設は、重度の症状の者こそ支援が必要であるのに、むしろ重度であればあるほどに受け入れを断られるという悪循環をも断ち切っていた。そうであっても、調査員たちはそれらの称賛の声に耳を貸さず、無秩序で怪しげな団体だと決めつけてしまう。  もっとも社会に必要なはずの「正義の声」が、その社会のルール上では問題視されてしまうという理不尽と矛盾。それでも、ただただ子どもたちの幸せを願う運営者と支援員、彼らを称賛する周りの人々……。映画から浮かび上がるのは、単純な損得では到底推し量れない、「他人のために生きる」人々の素晴らしさと尊さだ。彼らの存在を知るということだけでも、本作はとてつもなく大きな価値がある。

実際の自閉症者をキャスティングした理由

 本作の主人公とその友人を演じたヴァンサン・カッセルとレダ・カテブはベテランの俳優であるが、実際に自閉症である演技未経験の者や、本物の支援員もキャスティングされている。  監督の2人はパリのすべての団体を調査し、その中で自閉症など他人とのコミュニケーションに問題を抱える人々を雇っているアートグループを見つけ、そこで出会った愛嬌のある青年に役を依頼した。彼の両親からは心配の声もあったものの、その心理状態をよく察した衣装スタッフのおかげもあって、普段はつけないネクタイやベルトもして、靴下も履いて演技に挑んだのだという。監督2人は撮影中にトラブルがあっても柔軟に対応し、彼の口癖である「僕は何も悪くない」という言葉を映画に取り入れたりもしたそうだ。
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 また、重度の症状の少年を演じたのは、本人ではなく弟が深刻な自閉症を持っていた人だったのだという。誰にも相談しないで、1人でオーディションに参加した彼は、エリック・トレダノ監督に「僕には自閉症の弟がいる。この映画に参加することで、弟に少しでも寄り添えるかもしれない。彼のことを愛せるようになれるかもしれない」と話したそうだ。  本物の支援員と自閉症の若者たちを登場させた理由について、オリヴィエ・ナカシュ監督は「実在の人物とフィクションを絶えず行ったり来たりして融合することで、登場人物や彼らの日常、個人的な問題に寄り添い、身近に感じることができると気づいた」と語っている。この言葉通り、本作はまるでドキュメンタリーを観ているかのように、彼らの日常や、そこに潜む問題を親しみやすい形で感じることができるようになっている。そのリアリティは、どんな演技力のある俳優でも実現し得ないものだろう。  また、主人公を演じたヴァンサン・カッセルは、モデルとなった人物に会いに行き、時には一緒にドライブもしたそうだ。その結果「相手が落ち着つかなくなるからと、あまり人と目を合わせない」「心配そうな表情」といった立ち振る舞いや人間性を観察し、演技に取り入れたのだという。クセの強い役も多かった名優ヴァンサン・カッセルが、聖人のように優しくも、同時に親しみやすく人間臭い人物に文句なしにハマっている様にも、ぜひ注目してほしい。
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構想25年の力作、そして映画が変えたこと
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