分担をしっかりと決めないと、「いつの間にか自分の役割になっていた」状態になり不満が残る
特に核家族の場合は、子どもに関わる人手が少ないため、家事と育児というボールを夫婦間で投げ合う状況が生まれやすい。解決策として三木さんは、夫婦以外の第三者の手を借りる選択をした。三木さん夫婦は、友人や知人が出産祝いで遊びに来てもらう代わりに、身の回りの手伝いをしてもらう「産褥(さんじょく)ヘルプ」を取り入れた。何かと気持ちに余裕をなくしがちな時期に、夫婦以外で家庭に関わってくれる人の存在は心強い。「産褥ヘルプ」は、産後ケアの普及を目指す
「NPO法人マドレボニータ」が提唱した考え方だ。
三木さんは「できれば妊娠中から産後の家事・育児タスクの洗い出しや分担プランを立てたいですね」と話す。
育児がスタートすると、忙しさで夫婦の話し合いがしにくくなる。そのため、まだ気持ちにゆとりが持てる妊娠中から子ども誕生後の生活をイメージしておくことが大切だ。
「家事であれば、最低限どのレベルまでやれば夫婦で納得するかをすり合わせておきます。食器洗いを例に取ってみましょう。産前は食器の水気を拭き取って、食器棚に戻すところまでをしていたなら、水切りかごに食器を置くまででよしとする、といった感じです。産前と同レベルで家事をしようとすると負荷になるので、夫婦で話し合って良い形を見つけます。特に育児では哺乳瓶の消毒方法やミルクの担当など、細かなタスクが発生します。夫婦間でしっかりと決めましょう」
分担の話し合いをしない、または初めからパートナーの協力を諦めて自分でやってしまうと、「いつの間にか、自分の役割になっていた」といった状態に陥ってしまう。保育園送迎が妻の役目になっていた、というケースがそれに当たる。
この場合、夫婦間での合意がない状態で役割が決まっているので、負担をしている方は不満を抱きやすい。積もり積もった不満がその後爆発し、夫婦仲に亀裂を生じさせてしまいかねない。
お互いの仕事を尊重し、家事と育児の担当を柔軟に変える
妻と3歳のお子さんを持つ武田さん(仮名、30代男性)も、「夫婦のどちらかに負荷がかかり続けるやり方は避けました」と話す。
武田さんが心がけたのが、「状況に応じて役割を柔軟に変える」ことだった。
「我が家では基本的に保育園の送りは私、迎えは妻が担当しています。でも仕事の忙しさには波がありますし、頑張り時もあります。でも当初の役割にこだわってしまうと、仕事のチャンスを逃してしまうかもしれません。
妻が挑戦したい仕事があって帰りが遅くなる時期には、私が迎えも行って妻が気持ちよく働けるようにしました。お互いの仕事を尊重しよう、というのが私たち夫婦のルールです」
武田さんは他に、「定期的に一人になる時間を作りリフレッシュをしたり、家事や育児で負荷に感じていることを気軽に話し合う時間を持つようにしています」と話してくれた。
冒頭で紹介したベネッセ教育総合研究所の調査では、子どもが生まれても「夫を愛している」と答えた女性の特徴も載っている。育児中でも夫に高い愛情を抱いている妻ほど、「夫は家族と一緒に過ごす時間を努力して作っている」や「夫は私の仕事、家事、子育てをよく労ってくれる」と感じている割合が高い。
三木さんと武田さんはともに、「思っていることを伝え合うこと」を重視している。家事や育児、仕事においての価値観の共有を習慣化し、夫婦のすれ違いを防いでいるのだ。
6万人以上が利用するパートナーとの価値観共有アプリ「ふたり会議」を提供する株式会社すきだよ代表のあつたゆかさんは、夫婦間での話し合いの大切さについて、次のように語る。
「子育て中は仕事やプライベートで様々な調整ごとが発生します。たとえば、どのような保育園に通わせたいのか、義実家を頼りたいか、育休復帰後にはフルタイムで働きたいかなど、決めることがたくさんあります。そんな時、夫婦間で考えを共有できないと関係がうまくいかなくなってしまいます。当社提供のサービスをはじめ、夫婦の話し合いをサポートするツールを活用し、話し合いの習慣を身に着けていただきたいと思います」
子育ては夫婦の人生にとって大きな変化をもたらす。また、子どもの体質や性格によっては、転居や転職を余儀なくされるケースもあり、夫婦だけの生活の時に持てていた心のゆとりをキープするのは難しいかもしれない。
だがそれでも、子育てのチームとして夫婦が向き合い、「今どう思っているのか」「パートナーに何をしてほしいのか」「今後どうなっていきたいか」を話し合い続けることで、夫婦関係を破綻させるような気持ちのすれ違いを防げるのではないだろうか。
<取材・文/薗部雄一>
1歳の男の子を持つパパライター。妻の産後うつをきっかけに働き方を見直し、子育てや働き方をテーマにした記事を多数書いている。