こうした暑さ対策は各メーカーともしのぎを削っており、最新のトラックは大分改善されつつあるというが、それでも中には「真夏でも外にいるほうが方が涼しい」というドライバーもいる。
また「暑さ」以外にも、運転席の後ろがすぐに壁になっていることで、短い休憩や荷主先での待機時間にリクライニングを倒して体を伸ばすことができないという大きな欠点があり、これは彼らにとって暑さと並ぶか、それ以上に苦痛だったりする。
「
胡坐(あぐら)がかけない」というのも2階建てトラックが好かれない理由の1つだ。
広さはあれど、それほど高さは確保できていないため、胡坐をかくと必然的に首が折れるため、小休憩するには不向きなのだ。
さらに、運転時においては重心が上にいく分、軽くブレーキを踏んだだけでも前にしゃくったようにカクンカクンとなるので、長時間の運転は疲れるという声もあった。
こうしてトラックドライバーの「寝台問題」を考えると、毎度最終的に行き着く疑問に突き当たる。
「
どうして彼らは車内の中で寝なければならないのか」だ。
居眠り運転は自分自身だけでなく、周囲の命の危険にさらす行為ゆえ、トラックドライバーにとって日々「質のいい睡眠をとる」「休息期間を快適に過ごす」ことは、もはや彼らの仕事ともいえる。
アメリカのトラックのように、車内に広いベッドにキッチン、トイレやシャワーなど、しっかりとした居住空間があるならば問題はない。が、日本のトラックドライバーに用意されているのは「
あっても簡易ベッド」なのだ。
毎日狭い空間で「車中泊」をせねばならない職業は、トラック以外他にない。同じ運転業で長距離を走るバスドライバーでさえも、社内にある仮眠室や観光地の宿に宿泊するのだ。
先日、石川県野々市市において、違法駐車のトレーラーに乗用車が追突し、乗用車に乗っていた男性が死亡した事故があった。
これに対し警察は、県トラック協会にトレーラーの違法駐車をなくし、交通事故を抑制するよう依頼したのだが、同協会は逆に、パーキングエリア・サービスエリアなど駐車して待機できる場所の確保を国の予算措置を要請した(
参考)。
運送業界側からすれば「協力してほしいのはこちらのほう」で、トラックとて好きで路上駐車をしているわけでも車中泊をしているわけでもないというのが本音なのだ。
筆者も現役時代、仕方なく停めた路上で時間調整しながら休憩している時は、気持ちが全く休まらなかった。
現在「当然」とされている彼らのその労働環境には、こうした非常識の塊がゴロゴロ存在している。
本来ならば、トラックの駐車スペースだけでなくドライバーの宿泊所を確保し、路上駐車せずとも心身安らげる環境を整えるべきところではないか。
彼らが本来求めているのは、「2階建てトラック」でも「暑さ対策」でもないような気がしてならない。
<文・写真/橋本愛喜>
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『
トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは
@AikiHashimoto