夏休み明けに増える子供の自殺。大人は子供のこんな表情の傾向に注目せよ

自殺を考えていた子供は、親と表情が合っていなかった

 実験の結果、自殺念慮経験のある子どもは、自殺念慮経験のない子どもに比べ、ポジティブな会話をしているとき、ポジティブな表情の同期が減少することがわかりました。  同期の減少とは、平たく言えば、お母さんの笑顔と子どもの笑顔のタイミングがちぐはぐだということです。  また、このちぐはぐは、ポジティブな会話をしているとき、ポジティブな表情のみに生じ、ネガティブな会話をしているとき、ネガティブな表情には生じないことがわかりました。  つまり、母子間で怒りの表情を浮かべるタイミングは合っているということです。さらに、自殺念慮経験のある子どもと自殺念慮経験のない子どもとを比べても、ポジティブ・ネガティブ表情の全体的な発生率には違いがないことがわかりました。  これはどういうことでしょうか?  これは、自殺念慮経験のある子どもが、母子間のやり取りにおいて、単にポジティブ表情が少ない、あるいはネガティブ表情が多いというわけではないと考えられます。  問題は、ポジティブ表情のちぐはぐさです。本来ならば、ポジティブな会話において促進される、ポジティブ感情・表情を伝え、ポジティブ感情・表情を交換するという機能が適切に働いていないと考えられるのです。  この実験結果から、この問題の原因を母子どちらかに求めることは出来ません。  どちらか一方に問題があるのかも知れませんし、両方に問題があるのかも知れません。少なくとも母子間においてポジティブ表情の交換に問題が生じていることが観察できるということです。

たとえ、机上の空論になってしまうとしても

 こうした傾向を知ることで私たちに出来ることは何でしょうか?  正直、私には答えがありません。私は、平生、科学の目を通じて、現実世界を観、現実世界からフィードバックを得、「使える」科学と「使えない」科学とをわけています。  自分で経験し、触れたことにない現実について科学的知見だけを披露することは普段避けています。机上の空論になってしまうからです。適切な使い方を伝えられない恐れもあります。  しかし、前回と今回、このルールを破りました。自殺に関する表情の現実を私は知りません。  ましてや子どもが自殺してしまいたいと思う気持ちを理解することは、大人のそれよりも難しいと感じます。しかし、予防的な位置づけとして知見を紹介することが、本稿をご覧いただいた誰かの助けに、助けのヒントなるかも知れないと思い、書かせて頂きました。  自殺と感情・表情との関係を今後とも追っていきたいと思います。 参考文献:James, Kiera & Kudinova, Anastacia & Woody, Mary & Feurer, Cope & Foster, Claire & Gibb, Brandon. (2020). Children’s history of suicidal ideation and synchrony of facial displays of affect during mother–child interactions. Journal of Child Psychology and Psychiatry. 10.1111/jcpp.13231. <文/清水建二>
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。
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