大林宣彦監督が、人生をかけてこの世界に伝えようとしていたものとは

失われた全体性を取り戻す営み

海 そうした場を創り上げていくプロセスこそが、新しい医療の形の一つになるだろうと思います。「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2020」が、そうした場の一つになれればと思っています。  医療も芸術も「失われた全体性を取り戻す営み」として同じ働きがある、と自分は思っています。「いのち」に対して開かれている芸術祭、「いのち」というフィロソフィーを共に共有する芸術祭。  ドイツ政府は、コロナ禍の中で「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ」と呼びかけ、アーティストの支援をはじめました。自分も「アーティスト(アート)は必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ」と思っています。  その理由は、食は体のエネルギーを供給し、芸術(アート)は心のエネルギーを供給するからです。心のエネルギーは目に見えないからこそ必要性を感じにくいものですが、心身一如である体は心とつながりを持つ一体のものです。

医療と芸術をつなぐ「芸術祭」が今こそ求められている

葉 心のエネルギーが枯渇すると体は動かなくなります。そうした心のエネルギーを供給するのがアート(芸術)であり、媒介となるのがアーティストである、と。  医療従事者は生命を助ける仕事をして懸命に働いています。医療従事者も人間であり、身心が疲労し前に進めなくなるほど心が折れそうになることもありますが、そうした医療従事者の心を支えているのはアートを含めた文化や芸術の力です。だからこそ医療と芸術をつなぐ「芸術祭」が今こそ求められているのではないかと、思っています。  あなたの体と心がバラバラにならないよう、二つの世界をつなげてくれるものは、何でしょうか? 【いのちを芯にした あたらしいせかい 第6回】 文・写真/稲葉俊郎
いなばとしろう●1979年熊本生まれ。医師、医学博士、東京大学医学部付属病院循環器内科助教(2014~2020年)を経て、2020年4月より軽井沢病院総合診療科医長、信州大学社会基盤研究所特任准教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員、東北芸術工科大学客員教授を兼任(山形ビエンナーレ2020 芸術監督 就任)。在宅医療、山岳医療にも従事。未来の医療と社会の創発のため、あらゆる分野との接点を探る対話を積極的に行っている。著書に、『いのちを呼びさますもの』『いのちは のちの いのちへ ―新しい医療のかたち―』(ともにアノニマ・スタジオ)、『ころころするからだ』(春秋社)『からだとこころの健康学』(NHK出版)など。公式サイト
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