タワマンの不動産価格にも影響大。ドロ沼化する[羽田新ルート]の騒音
都心の空が騒がしい。羽田空港の新しい離着陸ルートの運用開始から5か月。想定外の騒音の大きさに住民たちは困惑している。資産価値の低下も囁かれ始めたが……
想定以上の騒音だった。国交省は「羽田新ルート」の運用開始1か月の騒音測定データを8月4日に公表した。うち9例で住民らに説明していた平均推計値より1~4デシベル大きいことがわかったのだ。一方で、今回の公表を待たずして、6月に新ルート下の住民ら29人による「羽田問題訴訟の会」が、運用停止を求める行政訴訟に踏み切っている。同会メンバー・黒田英彰氏はこう主張する。
「騒音は3デシベル増えると体感音量は約2倍になるとの国会答弁もあり、場所によっては当初の想定の倍以上のうるささと言ってもいい。風の向きや強さでさらに大きく聞こえることもあります」
渋谷区内に住む訴訟の会の別のメンバーもこう証言する。
「ビルの5階に住んでいますが、窓を閉めていても騒音はかなりのもの。高校生の孫も新ルート運用以降、勉強に集中できないと嘆いています。他にも区内の保育園では、騒音で園児が泣きだしたという報告も受けています」
新ルートの運用は、コロナ禍と重なったことでテレワーカーからも怒りの声が。品川区に住む会社員(30代)の話。
「私のマンションは、新ルートの真下で飛行高度約350mの地点なんですが、部屋は18階なので航空機までの距離は300mも離れていない。窓を閉めていてもかなりの騒音です。新型コロナの影響でテレワークとなったせいで、南風時には毎日、轟音にさらされるようになりました」
こうしたなか、懸念されているのが新ルート直下にある不動産の資産価値の低下だ。大井町駅近くにある不動産店主は言う。
「4月以降、新ルートによる騒音を理由とした退去が2件あった。いずれも飛行高度が300mになる大井町エリアに住んでいた、幼いお子さんを持つ家庭です。一方、同エリアで新たに部屋探しをする人も、騒音問題を気にして飛行時間帯に内見をしたいという人が増えています。実際に騒音を聞いて諦める夫婦もいました。周辺物件の資産価値の低下を示す客観的なデータは現状まだありませんが、マイナス要因であることは確か」
物件のオーナーも資産低下リスクに気をもんでいる。渋谷区内のマンションを所有する男性は言う。
「新ルートに対して反対の声を上げようと住民に呼びかけたんです。しかし、管理組合の理事長からやめるよう圧力をかけられた。どうやら不動産業者から『マンションの資産価値が下がるから黙っておいて』と言われたらしい」
騒音は不動産価格にどの程度の影響を与えるのか。マンションアナリストの武内修ニ氏は言う。
「不動産価格の変動はさまざまな要因があるので、単純計算はできません。例えば、’94年に民間企業が米連邦航空局に提出した報告書には、ロサンゼルス国際空港北部では騒音が1デシベル上がるにつれ不動産価格が1.33%下がるという分析結果があります。この数字を基にすれば、大井町駅周辺の不動産価格は27%程度下がることになる(20デシベル×1.33)。一方で、一部はすでに織り込み済みであることを示唆するデータもあります。品川区の中古マンションの相場は’16~’20年で約16%上昇していますが、新ルート直下のタワマン相場はほぼ横ばい。また、新ルートから150mの距離にある某タワマンは5%ほど値を下げています」
騒音による影響はすでに出始めているようだが、前出の黒田氏は、他の問題点も指摘する。
「住宅街上空を頻繁に行き交うことで、氷塊や部品などの落下物による死傷事故リスクが大幅に上昇します。’14年8月25日に、羽田へ着陸前の航空機から氷塊が落ち、工場の屋根を突き破るという事故も起きています。住宅街なら死傷者が出るでしょう。また、通常は3度程度となっている着陸時の進入角度も、新ルート夏場では3.8度まで深くなる。羽田新ルートは世界の空港と比べても着陸が難しいことで有名です。さらに、航空機の離陸時の3分、着陸時の8分は『クリティカル11ミニッツ』と呼ばれ、天候やヒューマンエラー等の危険要素が増加し、事故が発生しやすい。新ルートでは離陸の3分間に川崎石油コンビナート上空を通過します。ここに高温の部品が落ちたり、万一、墜落機が突っ込むことがあれば大惨事です。過去、石油コンビナート火災が燃え尽きる前に人間の力で消火できた例はないと聞きます」
テレワークもできない!騒音で引っ越した家族も
新ルート直下にある不動産の資産価値が低下する懸念
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