マンションの真上を通過する飛行機。300m以上離れていても、肉眼では大きく見える 写真/時事通信社
では、国交省はなぜこれほど問題の多い飛行ルートを採用したのだろうか。航空ジャーナリストの坪田敦史氏は話す。
「まず、安倍政権によるインバウンド政策や東京五輪開催に合わせ、国交省は首都圏の発着枠を増やしたかったわけです。それなら、キャパシティに余裕のある成田空港を増やせばいいのですが、世界の航空各社は都心へのアクセスがいい羽田に就航したい。そうした意向もくみ取る形で、海に面した空港でありながら、住宅街を飛行するルートを採用せざるを得なかったんでしょう」
一方、大手紙の交通行政担当記者は、国交省に別の意図があるのではといぶかっている。
「国交省には、航空機の着陸料やジェット燃料の税金をプールした資金が空港整備特別会計という名目のもと、1兆円近く貯まっていた。’13年に自動車安全特別会計に統合されましたが、ゆくゆくは一般会計に繰り入れられるはず。航空官僚には、このカネが一般会計になって自由に使えなくなる前に羽田拡張に使ってしまおうという思惑があったのではないか。拡張は省益拡大や天下り先確保にも繋がるので、動機としては十分です」
新ルートが決まった経緯にはさまざまな要因がありそうだが、住民から非難囂々となっていることについてどう考えているのか。国交省はこう回答を寄せた。
「新ルートはまだ固定化したわけではなく、今年度中に新ルートのメリット・デメリットを取りまとめ、検討を重ねていきたい」
前出の黒田氏は言う。
「実は、羽田空港は夜間の23時~早朝6時に限って、千葉県の富津岬あたりから反時計回りに東京湾を回って着陸する飛行経路があるのです。これを昼間に改良して使用すれば、新ルートは必要なくなり騒音問題も解決できそうです」
新ルートは果たして固定化するのか、行政訴訟や国交省の検討の行方を見守りたい。
夜間運用される東京湾のルート。こちらは海上を通過している(出典:国交省資料)
新ルートを巡っては、いわゆる「横田空域」が影響しているという説がある。首都圏に広がる同空域は横田基地や厚木基地に離着陸する米軍機を管制する米国管轄のエリアで、日本の航空機もむやみに進入できない。
「日米両政府は昨年、新ルートに絡み横田空域の東側を飛行する旅客機の管制を日本が担うことで合意しており、実際、中野上空で空域を通過しています」(前出の大手紙記者)
一方、「横田空域説」に関して前出の黒田氏は「政府による目くらましでは」と語る。
「軍事機密の向こうで何を合意したか正確に検証する術はないですし、軍事面で言えば、それよりもオスプレイが配備されている自衛隊の木更津駐屯地や、習志野駐屯地上空の空域との兼ね合いのほうが、新ルートに余計に影響しているのでは」
首都上空は誰のものなのか。
<取材・文/奥窪優木>
※週刊SPA!9月1日発売号より