安倍政権の「3大成果」と、そのレガシーをどう活かしていくべきか?

辞意表明の会見をする安倍晋三首相

辞意表明の会見をする安倍晋三首相(時事通信社)

憲政史上最長の政権

 2012年12月に就任した安倍晋三首相は、2020年8月29日に突然の辞任を表明しました。次の首相が指名されるまで職務を続けるとも表明しています。理由は健康問題です。  安倍首相は、首相としての在職日数が憲政史上最長です。第一次の在職日数を合わせずとも、2012年以降の連続在職日数だけでも、この8月に佐藤栄作首相を超えて最長となりました。次の首相が国会で指名されるまで、その記録は伸び続けることでしょう。  これは、安倍首相が他のどの首相よりも「時間」という資源を有していたことを意味します。これまでの多くの首相が、力を発揮する上で最大のハードルとなったのが「時間」の不足でした。多くの首相が1年から2年で辞任しています。一方、安倍首相以前の連続在職日数トップだった佐藤栄作首相は、高度経済成長を腰折れさせることなく、沖縄返還などの外交成果もあげています。  安倍首相の「時間」という資源は、国会と与党内、世論で多数派を占める支持勢力によってもたらされていました。2012年の第二次安倍政権の発足以降、衆参の議席は常に過半数を超える与党議席で占められていました。自民党内では、石破派を除く実質的な総主流派体制でした。内閣支持率は、在任中の大半の期間で「支持する」が「支持しない」を上回っていました。  つまり、安倍首相は、戦後のあらゆる首相を上回る「力」を持っていたのです。おそらく、安倍首相を上回る「力」を持ちうる首相は、なかなか現れないでしょう。  そこで、戦後の首相でもっとも「力」を有していた安倍首相の成果とレガシーを振り返ることは、意義あることです。なぜならば、首相として何ができるのか、首相であっても何が困難なのか、一つの限界を示しているからです。

第一の成果は憲法を改正できなかったこと

 安倍首相の最大の成果は、憲法を改正できなかったことです。安倍首相は、第一次の前から、憲法改正の重視を公言してきました。例えば、2012年12月の首相就任直前には「いじましいんですね。みっともない憲法ですよ、はっきり言って。それは、日本人が作ったんじゃないですからね」と発言しています。在任中も、何度も憲法改正に強い意欲を示してきました。  しかし、安倍首相の「力」をもってしても、憲法改正をできませんでした。正確に言えば、憲法改正の手続きに入ることすらできませんでした。  しかも、安倍首相が求めた改正の方向は、自民党の改憲草案に見られるように、憲法の基本原則を変えようとするものです。憲法の基本原則は「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」です。これらを一部でも変えようとする試みが、安倍首相によってすらできなかったわけです。  よって、安倍首相の第一の成果は、憲法の基本原則を変更する改正が事実上、不可能と実証したことです。安倍首相ほど、基本原則を変更することに強い熱意を持ち、長い在職日数という時間を持ち、議席・与党・世論から安定的な支持を受けた首相は、戦後これまでいませんでした。野党も四分五裂していました。強権的と思われている祖父の岸信介首相ですら、強力な野党が存在し、党内に反岸派を抱え、世論から反発を受けて憲法改正を諦めました。それに対し、安倍首相は絶好の環境でした。
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富を大企業・富裕層に移しただけで終わったアベノミクス
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