映画『ゆきゆきて、神軍』が、財務省を追及する赤木雅子さんに力を与える

上映終了後、原監督と赤木雅子さんの対面の時間をとってもらえることに

トークショーで話す原一男監督

トークショーで話す原一男監督

 この映画、雅子さんはパソコンで観ただけで劇場では観ていないはずだ。大きなスクリーンで観てもらったらどうだろう。原監督の話も面白いはずだ。もしかすると監督に直接会えるかもしれない。  というのは、私はこの映画館とも原監督とも以前、ご縁があったからだ。七藝では、今年1月に障害者の自立を描く映画を取材して記事「『障害者あるある』の背後に~映画『インディペンデント・リビング』で知る自立生活の可能性」を書いている。  原一男監督のことはNHK時代、監督が大阪の泉南地方のアスベスト被害を取り上げた「ニッポン国VS泉南石綿村」というドキュメンタリー映画の完成試写会を大阪芸術大学で行った際に取材に行き、NHK大阪のニュースにした。そのことを原監督の公式サイトでも紹介している。  残念ながらこのニュースはもう公開されていないが、アドレスの日付が2017年4月5日になっている。これは森友学園をめぐる国有地値引きが発覚し、赤木俊夫さんが密かに公文書を改ざんさせられてから間もない頃だ。こんなところにもご縁を感じる。  前夜「しばらく連絡は控える」と言った舌の根も乾かぬうちに、いきなり翌朝、私は雅子さんに電話した。 「『ゆきゆきて、神軍』、観に行きませんか?」  幸いOKしてもらえたので、今度は映画館の担当者に電話し、協力を依頼した。そこから原監督のプロデューサーにつないでもらうと、3年前の私のことを覚えていてくれて、話がつながった。上映終了後、原監督と赤木雅子さんの対面の時間をとってもらえることになった。
映画とトークショーに見入る赤木雅子さん

映画とトークショーに見入る赤木雅子さん

 上映終了後、舞台上で原一男監督のトークショーが始まった。30分余りにわたるその話も興味深かった。中でも赤木雅子さんは、主人公の奥崎謙三氏の人間としての弱さを伺わせるエピソードに心ひかれたようだ。  例えば、奥崎氏が最初から真相解明の信念を持っていたわけではなく、戦後しばらくたってある出来事をきっかけに目覚めていくことや、真相解明のさなかにも実際にはいろいろ思い悩むことがあったことなどだ。

「私のことも、殺せるんなら殺してみろ、という感じです」

赤木雅子さんと対談する原一男監督

赤木雅子さんと対談する原一男監督

 トークショーの後、原監督は著書のサイン会を済ませ、雅子さんが待つ控え室に姿を見せた。 「お話聞けてよかったです」と雅子さん。 「いえいえ、きょうはまじめに、下手に笑いを取ろうという気持ちは捨てました」と原監督。 「やっぱ劇場って違うでしょ?」 「全然違います。迫力もあるし、臨場感というか、奥崎さんの力も見えるし」  和やかな雰囲気の中で雅子さんは感想を切り出した。 「奥崎さんの姿を見て、私ももうちょっと頑張らなあかんなあと、すごいと思いました。(財務省が夫に)改ざんさせたことを追及しようとするんだけど、やっぱりそこから逃げちゃうんですよ」 「あら、何でですか? やっぱり相手が大きいっていう感じ?」と原監督。  だが実は雅子さんは、子どもがいないこともあって、夫を亡くした今「失うものは何もない」という感覚なのだ。 「財務省は夫を殺した相手ですから。私のことも、殺せるんなら殺してみろ、という感じです」  巨大な権力は怖くないけど、むしろ以前の平穏な日常からかけ離れたことをしている自分へのためらいがある。世の中の人がどう受けとめるだろうか? 特に自宅で一人になった時、心のバランスを保つのが難しいという。 「誰が敵かがまだちょっとわからないんで、それが知りたいので裁判をしているんですけど。じゃあ裁判で誰かとわかった時に、私はその人を(ためらいながら)殺したいけど……(涙ぐんで)殺せない……」  言葉に詰まる雅子さんに原監督が優しく声をかけた。 「普通そうですもんね、生活者の感覚っていうのは。それが人間だよね、ということですよ」  原監督と話した約20分間はあっという間に過ぎていった。
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映画と原監督が目覚めさせてくれた「覚醒記念日」
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