――「『はりぼて』は記者たちのそばにもあった」との映画紹介の言葉通り、赤裸々に取材者としての苦悩も明かす内容になりましたが、映画の感想はどのようなものでしたか。
砂沢:社内向けに上映会をやりましたが、やはり五百旗頭が部内のメンバーに退職を告げるシーンについては賛否両論ありました。ただ、僕たちとしては100%妥協のない形であのシーンを制作しているので後悔はありません。
五百旗頭:同業他社の人たちは「うちの会社ではできません」と口々に言いますね。でもそれは最初から諦めていると思います。チューリップテレビの報道制作局と映画製作チームのメンバーは、覚悟を決めてこの映画を公開しています。
そのことの意味は、観客の方々にもそして、同業他社の人たちにも考えて欲しいと思います。僕たちは今のメディアを取り巻く環境に危機感を持っていました。自分が安全地帯にいるにもかかわらず、自分に火の粉がかからない形での取材や発表を繰り返しているからメディア不信が高まっているわけですよね。
© チューリップテレビ
リスクを取らないこと自体が僕はリスクだと思うのですが、今はリスクを取らない人が増えている。このシーンに関しては賛否両論あると思いますが、僕らはぶれることなく判断をしました。その覚悟を感じて頂けたら嬉しいです。
――後にやはり政務活動費の不正使用で2019年4月に詐欺罪で在宅起訴された自民党会派の村上和久議員に心情をぶつけるシーンもありますね。村上議員はドミノ辞職のあった時に「自分は不正使用はしていない。議会改革を進める」と公言していました。
五百旗頭:まだ刑事裁判が続いているので、不正をしていたか否かはわかりませんが、一市民として不正発覚時に議長職にあった村上議員のことは信頼していました。彼は議会における改革の象徴だったんです。市民感覚で「なぜ?」と質問をぶつけました。正直、裏切られたという気持ちはありました。
五本(幸正)議員とのやり取りもそうですが、各議員とのガチンコのやり取りの中で僕らの政治に対する思いや苦悩を描いたつもりです。
――砂沢さんは社長室兼メディア戦略室に異動になったとのことでした。
砂沢:現在は、社長室に勤務して、総務、経理、労務を担当しています。今年1月に来たばかりですが、この部署でも何か実績を残したいと思っています。入社後は営業職を経験して、報道は4年程経験しました。今度の部署で社内の全ての部署を一巡したことになりますが、また3、4年後報道に戻って番組を作りたいと思っています。
© チューリップテレビ
――五百旗頭さんは今後、どのようなドキュメンタリーを制作したいと考えていますか。
五百旗頭:例えばナレーションありきの従来の日本の手法ではなく、新しい手法のドキュメンタリーを作りたいです。
今考えているテーマはコロナですね。報道の現場にいる人たちは目の前のことを追いかけるので精一杯ですが、僕はドキュメンタリーの専門部署にいるのでこのテーマについては長い時間を掛けて考えるべきだと思っています。
どのように映像表現するかは難しいのですが、コロナが炙り出した人間社会の本質を映像化できればと考えています。
――作品に寄せる思いについてお聞かせください。
砂沢:この映画は決して自民党を批判している映画ではないということはお伝えしたいです。たまたま富山が自民党王国であり、政務活動費の不正はその中で起こったということなんですね。他県の議会改革を取材している中でわかったのは、議会改革の進んだ地域は、志を持った優れた能力を持つ自民党員がリーダーとなっていることでした。
確かに、利権の構造など種々の問題が自民党にはありますが、それを突き破ってくるリーダーが自民党の中から生まれた時は、会派も最大で発言権もあるので、世の中を変える力が生まれています。
もちろん野党議員にも、すべての一人一人の議員に富山市議会を変えてほしいという期待を持っています。そして、それを常にチェックしていくことが報道の役割であり、富山市民ももっと政治や報道に関心を持って欲しいですね。
五百旗頭:まず、報道のあり方ですが、ある事象に対して何も疑問を持たないということは良くないと思っています。現場の記者が、些細な引っ掛かりを受け止め、そこから先を調べていけるか、それが重要なことです。
また、私は、記者であると同時に表現者でもあるので、多様な見方、視点を提示していくことが必要ではないでしょうか。
全国的に政治に対する無関心が政治腐敗を招いていると思います。政権の迷走があった最中に、コロナ禍が起きて生活が変わり、今は政治の判断が自分たちの生活に影響があるとようやく国民が気付き始めた段階だと感じています。そのタイミングでこの映画を公開できるのはよかったです。
そして、それは国政だけではなく地方において行われている政治も同じです。市議が14人辞めたけれども自分たちの生活は変わらない。そのような感覚が政治に対する無関心を招いていると感じますが、自分たちが無関心である間に状況はどんどん悪くなっていきます。
気が付いた時には取り返しのつかない可能性もあるということを、この映画を見て考えて欲しいと思っていますね。
<取材・文/熊野雅恵>
くまのまさえ ライター、クリエイターズサポート行政書士法務事務所・代表行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、自主映画の宣伝や書籍の企画にも関わる。