自殺の直前の表情は解析できないが、前段階ならばまだ間に合う可能性がある
こんにちは、微表情研究者の清水建二です。
有名人の自殺(その可能性を含めた)報道があると、「自殺前に撮影された写真や動画から何か自殺の兆候はわかりますか?」という質問を多々受けます。
また、友人・知人に自殺した方がいて、「ちゃんと向き合っていたら自分はその兆候に気づいてあげられたのではないか?」とご自身を責められ、二度と同じことを起こさないように自殺の兆候を示す表情を尋ねて来られる方もおられます。
結論から書きますと、事例的にはいくつか報告はされていますが、「自殺の兆候を示す特定の表情」というものは発見されていません。
従って、専門家もわからない、科学知見もない。こうした状況ですので、大変悲しいことではありますが、お知り合いの方が自殺されてしまっても、ご自分が直接の原因でない限り、ご自分を責めるのは酷なことではないでしょうか。
現時点の研究の流れとしては、自殺と表情との関係を直接結び付け考えるのではなく、自殺される方に多いとされる精神疾患、特に、うつ病と表情との関係が研究されています。Girardら(2014)の研究から自殺―うつ病ー表情の関係を考えたいと思います。
大うつ病性障害と診断され、実験参加者として協力してくれた33名の患者の1・7・13・21週時の診断時における非言語行動が観察されました。各期の診断時に参加者は、うつ気分、罪の意識、自殺念慮について質問されました。その様子がビデオに録画され、患者の非言語行動が分析されました。
分析の結果、次のことがわかりました。
・うつ症状が重いとき、笑顔と悲しみに関連する表情が少なく、軽蔑と羞恥に関連する表情が多く、頭の動きは減少した。
・うつ病の症状が改善されるにつれ、笑顔と悲しみに関連する表情が多く、頭の動きも増え、軽蔑と羞恥に関連する表情は少なくなった。
・怒りに関連する表情については、症状間に違いは見られなかった。
笑顔と悲しみは、他者に協力し、慰め、他者に助けを求める親和的なシグナルだとされています。軽蔑、羞恥そして怒りは、その逆の非親和的なシグナルだとされています。頭の動きは、他者とコミュニケートする努力を意味し、親和的なシグナルだとされています。
つまり、うつ病状が重いとき、実験に参加された患者さんらは、親和的行動が減り、非親和行動が増え、人と距離をとろうとする状態になっていたということです。
臨床心理士や主治医など、うつ病患者さんを診断される方々ならば、こうした質問と患者さんの反応との関係をつぶさに記録することで、自殺リスクの評価などに活かせる可能性があります。