ロシアの都市、カザンにある孔子学院
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米政府に「スパイ養成組織」と名指しされた「孔子学院」
いま、にわかに「孔子学院」が注目されている。孔子学院とは中国政府が諸外国の大学などと連携し、中国語や中国文化の教育をおこなう機関。日本では早稲田大学や立命館大学など15の大学に設置されている。
この機関がにわかに注目を集めたのは、激化する米中間の対立が原因だ。
8月13日に、ポンペオ米国務長官は、アメリカ国内に75ある
孔子学院を中国政府の在米公館と同じ「外交機関」に認定すると発表した。この認定で孔子学院が閉鎖されるわけではないが、運営や資金などを国務省に定期的に報告することが義務づけられることになる。
アメリカ政府が今回の措置に踏み切ったのは、米中対立の中で、これまでもあった中国政府が孔子学院を通じて、プロパガンダやスパイ活動などをおこなっているという批判者の声を採用したものだ。発表の中でポンペオ国務長官は「孔子学院は中国政府が資金を出しており、中国共産党の宣伝や影響力拡大のための組織の一部だ」として、こうした批判を裏付けるようなコメントをしている。
このアメリカの措置を受けて日本国内でも、Twitterなどで孔子学院に対して「中国共産党のスパイ養成組織」「今すぐ閉鎖すべし」とアメリカの動きに続くべきという声が多く見られるようになった。政治家の中にも佐藤正久参議院議員(自民党)が「日本にも確か15の孔子学院が大学内に設置。以前から問題になっていたが、状況を確認する」など、アメリカに追従した措置を支持することを匂わるツイートをする者も出てきている。
日本語でも、ネットの情報だけを見ると孔子学院の評判は、この上なく悪い。なにしろ、「スパイ養成組織」どころか既に大胆なスパイ網が広がっているとか、プロパガンダが行われているとか。そして、孔子学院を設置している大学はすでに中国共産党の影響下にあるのだという。まるでショッカー日本支部みたいな風評の孔子学院。Twitterなんてみていると、よい評判というのはまるで見つからない。
そんな恐怖の組織が日本の大学の中に巣くっている。でも、実際に筆者が訪ねた孔子学院は……まったくそんなところではなかった。
取材に出向いて「あの〜おたくはスパイですか」と訊ねたわけではない。もう、一年ほど中国語を学びに通っているのである。
きっかけは、昨年、何度か取材をしているゲーム制作者が中国の同人誌即売会でゲームを売るというので、同行することにしたことだ。作っているのはマニアックなアダルトゲームなのに、最近はsteamを通じて中国語版のほうが売上がよいという。見聞として「いったい、どんなヤツが買いに来るのか」を見たかったのだ。
日本の同人誌即売会とは違う雰囲気は楽しかったが、困ったことがある。言葉が通じないのである。今どき中国でも英語は通じるだろうと、たかをくくっていたのだが、存外に英語が通じる人は少ない。華やかなコスプレイヤーも多く、たくさん写真を撮ったのだが、「目線下さい」ってなんていえばいいかわからないので、単に無様に撮影しているオッサンである。
ここはネタの宝庫、再び来ることもあるだろう。そこで、ニーハオくらいしか話せないのではどうしようもない。そう考えた筆者は、帰国後、さっそく独学で中国語の勉強を始めた。同じ漢字文化圏なので字面の意味はわかるが発音が重要なのが、中国語学習の問題点。仕事で中国語を使う機会が多い人からも「発音は独学は無理だよ」という意見も聞いて、学校に通って学ぶことした。なお、この間、コミックマーケットに参加するために来日した中国人コスプレイヤーの前で中国語を話したら「発音が全然ダメ……」と呆れられたことも、原動力になっている。
そして、ここと決めたのが某大学の孔子学院が都内で開講している中国語講座である。決めた理由は授業料の安さと交通の便である。そして、当時からネットで検索すると「スパイ組織」という風聞ばかりが目立った孔子学院がどんなところが見てみたいという気持ちもあったのだ。