トランプ大統領に「スパイ機関」と名指しされ、ネットでも大荒れの「孔子学院」。1年間通ってみたらこうだった

1年ほど中国語を学びに通ってみた実感

 平日夜の授業の顔ぶれは、授業では物足りないと受講しているその大学の学生と、あとは社会人。「中国語は発音が重要です。発音が重要ですから中国人はうるさいんですよ」と、笑ってよいのかどうかわからないネタを話してくる、中国人講師に促されてまずは自己紹介。講師は「みなさんは、中国にいかれたことがありますか?」と受講生に話を振る。  ここで筆者の隣に座っていた女性がにこやかに、こう話したのでちょっとのけぞった。 「はい、台湾にいきました!」    政治的に微妙な問題のような気もするが、講師も受講生も誰も気にしている風はない。  授業を重ねるうちに私語も交わすようになったので、色々と訊ねて見た。受講している理由は仕事が販売業で中国人客が増えているとか、なにか語学を勉強しようと思って選んだという、ふんわりとした人が中心。なによりSNSで書かれているような悪評を、ほとんど見たこともない人ばかりだった。  授業は教科書を元に会話と発音を中心に進んでいく。しかし、いくら授業に参加してもスパイ化工作は始まらない。それは冗談としても、中国共産党のプロパガンダもまったく始まらない。ここまで一年ほど授業を受けたが、毛沢東の話はこっちから観光地になっている毛沢東の生家の話を振ったら出た。けれども習近平も鄧小平も一度も話題になったことはない。そんな露骨な方法以外に、巧妙に中国の主張を支持させるような話題が出てるかといえば、そんなこともない。  この一年、ひたすら講師の口から繰り返されているのは「その発音違う」「もう一回」「そこは半三声」「一声はもっと高いよ」くらいである。  見ると聞くとでは違う、その実態。まさにネットのあちこちに溢れている、自分と異なる意見を持つ「敵」と見做すものを、悪魔的に肥大化して脅威として喧伝する手法、そのままなんじゃないかと思う。

真に脅威なのは「教育に対する投資の姿勢」

 こうして親切な指導で学んでいることで、次第に中国に対する親しみを持つこと事態がプロパガンダの餌食になっているといわれれば、その通りかも知れぬ。実際、こうして記事を書いているわけで。とはいえ、文化事業や語学を通じて自国に対する支持層の獲得していくのはあらゆる国が行っていること。中国の脅威があるとすれば、中国の他国に対するこうした施策が、強大なことであろうか。例えば、孔子学院では事業の一環で中国に留学する学生のために奨学金制度を実施している。この中で、もっとも手厚いものだと中国本土の大学の本科生として学費は4年間にプラスして毎月生活費も支給とある。  孔子学院を設置する大学のメリットも極めて大きい。孔子学院は、日本の文部科学省に相当する教育部の下部組織である国家漢語国際推広領導小組弁公室(漢弁)が管轄している。開設にあたって漢弁は開設資金を提供。また助成金は最初の3年が原則とされているが、それ以降も支払われる場合もあるとされる。さらに、中国人教師の給与および海外生活手当の全額または相当額も負担してくれる。こうした手厚い施策が世界各国に向けて国家的な政策として実施されている。その巨大さが対立を孕む国々には脅威として見えていることは否めない。  もちろん、筆者のような吹けば飛ぶような物書きが、ネットで喧伝されているようなスパイ活動やプロパガンダ活動を「ない」とも「ある」とも断言し尽くすことはできない。もしかしたら、自分以外の生徒はスパイ養成されているかもしれない。ただ、1年間通って勉強している身で実感することは、スパイ養成機関だとか工作活動の拠点なんて非難は荒唐無稽だと思うってことだ。
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わざわざ「危険な組織だ」と噂される公然拠点を構えるメリットはない
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