新型コロナに感染しても、若者は重症化しにくいと言われているが、後遺症に関しては、若いから比較的大丈夫という理屈は通用しないのかもしれない。大学生の井口大輔さん(仮名・20代)は、新型コロナの発症から3か月以上、後遺症に悩まされ続けている。
「4月頭に40℃を超える高熱が出て、経験したことがない激しい肺の痛みとともに、頭痛や味覚・嗅覚障害、発疹といった症状が表れました。すぐに新型コロナを疑いましたし、PCR検査でも陽性反応が出たのですが、当時はベッドに空きがなくて。
年が若いせいなのか、なかなか入院できず、1か月近く自宅療養が続きました」
入院直後、発疹で真っ赤になった井口さんの手。発疹は退院後もしばらく続いたという
11日間の入院生活の後、味覚・嗅覚障害、発疹などは徐々に回復したが、万全には程遠いという。
「いちばんつらいのが
倦怠感。もともとジョギングや筋トレが大好きで体を鍛えていましたが、
感染後は20分歩いただけでも、息切れがして歩くのがしんどいです。9月の大学復帰を目指してリハビリを続けているものの、まともに外出できませんし、体調の悪い日はベッドから起き上がれないこともあります。当初は、インフルエンザのように2週間程度で治ると考えていたので、ここまで長引くとは思いませんでした」(井口さん)
体力には自信のあった井口さんだが、コロナ後遺症に苦しむ今は、倦怠感と息切れが悩みのタネに。日によって好不調の波も大きく、「調子がいい日に外出して、体調を崩してしまうこともある」そうだ。
ジョギングと筋トレで鍛えた井口さんの自慢の肉体は、コロナ感染後にやせ細ってしまった。体重は11㎏も減少。
「今は足を上げる筋トレしかできなくなってしまいました」
▼BEFORE
▼AFTER
人によって症状が変わるのも、コロナ後遺症の怖いところ。井口さんは味覚・嗅覚障害が比較的すぐに回復したし、浅丘さんも症状は軽かったそうだが、自営業の竹田香織さん(仮名・20代)は、味覚・嗅覚障害が長期化した。
「
味覚と嗅覚が完全になくなったのは、6月中旬に新型コロナを発症してから5日目のことです。何を食べても味や匂いがしないのが不気味で、食事をする楽しみや気力を失いました。発症から14日目に、嗅覚は思いっきり嗅ぐと匂いが何となくわかる程度に回復しましたが、味覚は逆に研ぎ澄まされて苦痛でした。酸っぱすぎたり、しょっぱすぎたりして食事がなかなか喉を通らず、ご飯はなぜか甘すぎて変な感じがしました」
そして、
発症から1か月近くたった7月上旬。嗅覚は回復の兆しが見られたものの、味覚は一向に改善せず、竹田さんは今も残る味覚障害に頭を抱えている。
「PCR検査で陰性が出たので、新型コロナは治っているはずなのに、
今でも繊細な味を感じることができません。甘い、しょっぱいくらいはわかるのですが、日によっては嗅覚も失うことがあって精神的に参っています……。料理ができませんし、仕事の会食では、相手に気を使わせないように注意するあまり、過剰なストレスを感じています」
嗅覚障害はだいぶよくなったものの、味覚障害に回復の兆しはない。
「コーラの味がわかりませんし、果物は酸っぱすぎて食べられません。今後は、コロナ後遺症を受け入れてくれる耳鼻科で治療を続けます」
さらに、いわれなき誹謗中傷や差別も、コロナ後遺症と闘っている人々を追い詰めていく。井口さんは、真実を知ってほしい、後遺症の認知を広めて理解のある環境をつくってほしいといった純粋な願いから、SNSを通じてコロナ後遺症の症状を発信しているが、「
誹謗中傷や、差別的な書き込みをする人が後を絶たない」と憤る。
「励ましのメッセージを送ってくださる方がいる一方で、売名行為を疑う方や、『若者の感染は自業自得』だと、理由も知らずに責めてくる方がいますね」(井口さん)
讃井医師によると、
元感染者への差別は、医療関係者の間でも起きているという。
「知り合いの看護師は復職後、先輩看護師に面と向かって『あなたはコロナなんだから、患者さんと接するときは気をつけてね』と言われたそうです」
感染拡大に歯止めが利かない状況下では、いつ自分が感染し、後遺症に悩まされるかわからない。他者を思いやる良心も、コロナ禍を乗り切るためには必要だ。
【讃井將満氏】
自治医科大学附属さいたま医療センター集中治療部 教授。集中治療専門医として、新型コロナの重症患者を中心に治療を行うほか、新型コロナの最新情報を発信している
<取材・文/黒田知道 写真/朝日新聞社 時事通信社>
※週刊SPA!8月18日発売号より