日本国内だけで4000万人以上のユーザーがいると推定されるTwitter。今では著名人や企業の公式アカウントも続々と開設される一大サービスに成長した一方、誹謗中傷をめぐる問題が日増しに深刻化している。
2020年5月にプロレスラーの木村花さんがSNS上での誹謗中傷が原因で自殺に追い込まれたとみられる痛ましい事件が起きたことで、「SNSにおける誹謗中傷」はたちまち議論の的に。
こうした状況下で、8月11日にTwitterを運営するツイッタージャパンは、アカウントに寄せられるリプライを制御できる機能を
リリース。つぶやく際にリプライを許可する対象を「全員」「フォローしているアカウント」「@ツイート(自分自身がメンションしたアカウント)のみ」の三段階から選択できるようになった。
Twitter上では、相手を不快にさせるようなものや見当違いなリプライがしばしば見受けられ、それを「クソリプ(クソなリプライ)」と総称する。今回の機能は事実上の「クソリプ防止機能」と呼ばれ、誹謗中傷問題も相まって導入を歓迎する声が多く寄せられる。
ただ、寄せられるリプライを制御できる機能の存在は、
「クソリプ」を防げる一方でSNSをめぐる新たな懸念点を生み出すのも事実だ。
もともと、SNSを使用する上での課題として指摘されてきたのが「
自分と異なる意見に触れにくい」ことだ。Twitterを例にとると、運用にあたっては自分で興味・関心のあるアカウントを選択してフォローすることができ、ここで情報の取捨選択ができる。
もちろん、これ自体は画期的で素晴らしいシステムだ。私は昔から歴史が好きなので、自分のTwitterアカウントでも歴史好きを多くフォローしている。現実の世界ではなかなか歴史好きに出会えないので、同じ趣味をもつ全世界の人たちと繋がれるのは大変勉強になるし、有意義なことだ。
しかし、一方で私のタイムライン(フォローしている人のツイートを時系列で表示する機能)には、当然ながら歴史が嫌いな人は少ない。歴史嫌いにとって歴史好きのツイートはつまらないものだし、その逆もまた然りだからだ。
一方、ひとたびTwitterの世界を離れて世間に目を向けてみると、残念ながら歴史好きよりも歴史嫌い、ないしは全く興味がないという人のほうが多い。
つまり、私のSNS上では現実世界と全く異なる「SNS上の世界」が成立していることになる。すると、いつの間にか「SNSの世界は素晴らしくて、現実が間違っている」とか「SNSの世界にある風潮が現実であるかのように感じてしまう」といった心理に繋がってしまいかねないのだ。
そして、いわゆる「クソリプ防止機能」は、この流れに拍車をかけてしまうだろう。
あえて極端な例として、SNS上に「誹謗中傷は世の中をよくするために欠かせない」という考えをもっている人と、彼に同調する多くのアカウントがあったとする。彼らが自分たちのタイムラインでこのことを声高に叫んだとすれば、当然ながら第三者による「それはおかしい」というリプライが予想される。
これまでのTwitterでは、自分にとって気に入らないリプライが寄せられた場合は、リプライを一瞥してから発信者を「ブロック」するという手法がとられた。この場合、確かにブロックによって以後はリプライができなくなるものの、「自分と異なる意見が世の中にある」ということは認識できるはずだ。
ところが、リプライ防止機能を使うと初めから許可されていないアカウントのリプライが届かなくなり、異論に触れる機会が完全に失われる。しかも、自分と同じ意見を持つタイムラインの人たちは当然ながらその主張に賛同してくれる。つまり、SNSの世界では異論が「なかったこと」になるのだ。
こうなると、もはや偏った主張の増幅には収拾がつかなくなる。SNSの懸念点をますます増幅する未来が到来するかもしれない。