大手PCメーカー「ASUS」が日本の直営店事業から撤退――新型コロナだけじゃない「閉店の理由」とは?

「赤坂」という立地の違和感

 しかし、新型コロナの影響とはいえども、ようやく日本の一般層にも浸透しつつあったASUSだけに、ここで国内唯一となった実店舗を閉店させてしまうのは勿体ないことだ。  ASUSは2014年よりSIMフリースマートフォン端末「ZenFone」を発売。日本市場でも割安な料金体系を特徴とするMVNO(通称:格安SIM)が普及してきたことを追い風に、中国のHuawei(ファーウェイ/華為)とともに大きく躍進を遂げ、ブランドの知名度を大きく高めた。そうしたなかHuaweiをはじめとする中国メーカーの「セキュリティ問題」が取りざたされたことで、台湾メーカーであるZenfoneが追い風を受けていたのも事実だ。  それでは、実店舗はなぜ閉店に至ってしまったのであろうか。  その理由の1つに挙げられるのが「赤坂見附」という立地だ。  ASUS Store Akasakaがあった場所は外堀通りを赤坂見附駅から少し溜池山王駅寄りに行ったオフィスビルの1階。多くのオフィスビルや官公庁が並ぶエリアで、徒歩圏には首相官邸や国会議事堂があるなど「PC・スマホショップの国内旗艦店」が立地するには少し違和感がある場所であった。
店舗近くから見た風景

店舗近くから見た風景。
おおよそ山王日枝神社の向かいにあたるオフィス街で、近隣には首相官邸も

「スマホ戦略見直し」も閉店の一因か?

 そしてもう1つの大きな理由として挙げられるのが、ASUSの「経営方針の転換」だ。  現在のASUSは格安SIMフリースマホ業界を代表するメーカーの1つであり、近年はそれを成長戦略の柱としていた。  しかしここ1~2年は、台湾鴻海傘下となったSHARPや中国系新興スマホメーカー(Xiaomi(小米)・oppoなど)の台頭を受け、一般消費者向けのスマートフォン端末シェアは最盛期よりも減っていた。そうしたなか、ASUSは成長の要であった格安エントリーモデルの取り扱いを徐々に縮小し、ゲーミングブランドを冠した「ROG Phone」をはじめとしたハイエンドモデルへの経営資源集中の方針を示すなど、スマホ事業の戦略自体を見直しつつあった。こうしたなか、2019年に発売されたASUSハイエンドのフラッグシップスマホ「Zenfone6」に初期不具合が相次いだことも、同社のスマホの評判を落とす結果となってしまった。
筆者のASUSコレクション

格安スマホの代表格となりつつあったASUSだが、近年は競争が激化していた。
筆者もASUSユーザーだけに閉店は残念だ。

 つまり今回の閉店は、こうしたASUSの一連の「スマホ戦略見直し」の一環であるとも受け取れる。  スマホ業界でのシェアが下がりつつある同社であるが、依然としてPCパーツ関連分野で高いシェアを占めており、赤坂、そして秋葉原にあった実店舗の閉店を惜しむ声も少なくない。筆者もASUSユーザーであり、また再び日本の街に「ASUS」の看板が戻ってくることを願って止まない。  もっとも、わざわざ「ASUS」を選ぶ人であれば「オンラインショップさえあれば問題ない」「都内の店が無くなればそのうち台湾まで行くよ」という意見が多いのかも知れないが……。 <取材・文・撮影/淡川雄太 若杉優貴(都市商業研究所)>
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体『都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken
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