こうした「日本企業の規律」について、現地の友人に話しを聞くと、「
休日に仕事をしたら、それ休日じゃないじゃん」という正論が返ってきた。身も蓋もない言い方だが、たしかに言うとおり……。
そんな仕事に対しての考え方の違いは、面接でも感じられた。「日本企業の規律」について、面接担当者は「こちらの人たちは
終業時間になると、残務があっても帰ってしまうんです」と説明していたが、それは日本が特殊なだけであって、
世界では当たり前のことだ。
怠け者であるかのようなニュアンスが含まれていたが、ビジネスにおけるルールに則って働いているにすぎない。また、
現地の人々への敬意が欠けているようにも感じられた。
もちろん、諸外国にも残業や休日出勤がないわけではないが、できるだけそれを避け、仮にどうしてもやらなければいけないのであれば、
正当な対価が支払われてしかるべきだ。
筆者はそれを「
日本企業の規律」という言葉でコーティングし、あたかも素晴らしい文化であるかのように「学ぶつもりはありますか?」と上から目線で問われたことに、強い違和感を覚えてしまった。
労働生産性は先進国中最下位、
経済成長率は30年近く低迷、そして「
Karoshi」という言葉が世界で悪名を轟かせている日本が、ドヤ顔で「日本企業の規律」を押しつける根拠はいったい何なのだろうか?
たしかに、人材と時間の制限があるなか世界市場で戦うには、身を削る必要があるのかもしれない。しかし、試合終了のホイッスルが鳴ったあとも戦い続けたり、選手が次々と倒れるなかで、「これが我々のやり方だ」と誇ることは果たして正しいのだろうか?
繰り返すが、決して
日本経済はかつてのように優れているわけではない。また、世界経済を席巻していたときも、それを支えていたのは
急成長した人口と
時間外労働だ。「日本企業の規律」というと
柔よく剛を制すような日本人の琴線に触れるイメージが湧いてしまうが、
実際は労働者たちの力でゴリ押ししていたにすぎない。
海外では本項で記したように、まるで世界には知られていないビジネスメソッドであるかのように使われている「日本企業の規律」。日本国内では、同じく
過剰労働や人権侵害が大きな問題となっている技能実習生たちにも、似たような謳い文句が使われているが、
こうした言葉遊びをやめない限りは、日本経済が再興する日は遠いだろう。
また、中国系企業のエンジニア待遇などは日本でも度々話題になるが、その厚遇は日本とは格段に違う。このままでは日系企業の元には優秀な人材など集まるはずもないだろう。
日本企業はその規律を誇り輸出する前に、
労働者に対する正しい敬意と対価を払うべきはずだ。
<取材・文/山田レシェック>
コロナ禍でまだ準都市封鎖中の欧州某国に滞在する欧州某国人系日本人のライター。現在現地で現地人として就職活動中