こうしたギャルの様子を見て、ギャルの発言は本当だと再度確信を持ったとRさん。電話が終わり、Rさんはギャルに話しかけます。
Rさん:そんなに二人は怖い存在なのですか?
ギャル:逆らえばもっと酷いことをされる。
そうこうしているうちに店から通報を受けた警察官が到着します。ギャルは警察官にも脅されて万引きした旨を説明しました。警察官は半信半疑の様子です。
警察官:その男女の名前は?
ギャル:言ったら何されるかわからないので、言えない。
警察の記録によれば、ギャルは初犯でした。しかし、彼女は逮捕されることになりました。ギャルに手錠をかける前に刑事が確認します。
刑事:本当に脅されてやったのか?
ギャル:私がやりました。
ギャルはうつむきながら、つい先ほどまでの供述を翻し、罪を自白したというのです。そこにいる警察官も同僚の保安員も「やっぱり彼女の話はウソだったじゃない。」という様子。
Rさん:彼女の話は本当ですよ。
警察官・同僚の保安員:……。
Rさんはなぜ最後までこのギャルの話を信用したのでしょうか?
「脅されたことが本当ならば、警察は捜査をしなくてはいけなくなる。彼女は、逮捕されること、そして捜査が追及されることを悟って、『自分がやった』のだとウソをついたのだと思います。彼女は、捜査の結果、黒幕が判明し、報復されることを恐れていたのではないでしょうか。警察は彼女のことを全く信じていなかった様子でしたが」
このようにRさんは説明して下さいました。
Rさんは、前回のケース「黒髪で清楚な女性万引き犯」と今回のケース「見た目が『ザ・ギャル』の万引き犯」とを比べながら、「現場に来ていた警察官らは、疑うべきところ(前回紹介した黒髪女性が別件の万引きを犯している可能性のこと)は疑わず、見た目に左右され判断しているのではないでしょうか。」と象徴的な2つの事件を通じて、想いを語って下さいました。
表情の変化を追いながら、動的に万引き犯にかける言葉を変えていくRさんのスキルに改めて感銘するとともに万引き犯の心の深淵を理解しようと意識するRさんの優しさを感じることが出来ました。
<文/清水建二>
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『
ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『
「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『
0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。