市場拡大[ノンアル]は誰が飲んでいるのか? 元依存症漫画家・まんきつ氏も専門バーを満喫 

ノンアルコール市場が日本の経済を救う?

 ノンアルコールビールのシェアが拡大中の一方、ビールの売り上げは減少傾向にある。’20年上半期の大手ビール4社の販売数量は、前年比で4~17%の減少となった。  この要因について、『ゲコノミクス』(日本経済新聞出版)の著者・藤野英人氏は次のように語る。 「背景にあるのは“働き方改革”と“多様性”。昨年末、会社の飲み会に参加しない『#忘年会スルー』が話題になったように、若者たちが公の場に“お酒を入れる”ことを疑問視するようになった。また、健康のためにあえて『断酒』『卒酒』を宣言するシニア層も増えています。つまり、場の雰囲気を壊すことを恐れ、無理して飲んできた人が堂々と『下戸である』と発信できる時代になった。さらにコロナ禍がこの傾向に拍車をかけました。アメリカでは、お酒は飲めるが“あえて”飲まない『ソバー・キュリアス』という新スタイルが浸透。『オシャレとしてお酒を飲まない』考え方は、近年の日本人にも認識されてきています」

下戸のFacebookグループも会員4000人超!

 自らを「ゲコノミスト」と名乗る藤野氏は、Facebook上にて「ゲコノミスト(お酒を飲まない生き方を楽しむ会)」グループを結成。現在は4000人を超える会員数を誇る。グループ内では、ノンアルコール飲料の新商品やノンアルコールドリンクを豊富に取り揃えているレストラン情報のほか、酒飲みと共存するための議論などが交わされている。
市場拡大[ノンアル]は誰が飲んでいるのか?

Facebookグループ「ゲコノミスト」。下戸・酒飲みにかかわらず申請制で参加可能。現在4000人以上のメンバーが在籍

「メンバーは『飲食店におけるノンアルコールドリンクの選択肢が少なくいつもウーロン茶のがぶ飲み大会になってしまう』と嘆いています。たいていのイタリアンやフレンチレストランは、お酒ありきで料理を提供している。そのため『客単価が低い』と思われるのも心苦しく、足が遠のきます。しかし現在は、コース料理にノンアルコールのペアリングをつけてくれるレストランも徐々に増え始めました。我々としては、モクテルや高級茶など、おいしいノンアルコールドリンクの選択肢を増やしてくれれば、アルコールと同じ価格設定でもかまわないという考え。飲料メーカーやノンアル専業の企業、卸業者、ノンアル専門バーなど、これからの時代を反映した下戸市場の開拓が、将来の日本の経済を救うことになるのでは」  昨年はノンアルコールの食事会「ゲコナイト」を開催し、大盛況だったという藤野氏。コロナ禍の現在も有志によるオンライン「ゲコナイト」が定期的に行われている。 「『ゲコノミスト』は決して酒飲みを否定するものではない。活動の根底にあるのは、飲める人『ノミスト』たちに飲まない人たちの気持ちをわかってもらうこと、そして、いかに共存していくかを模索すること。そのためにはノミストたちに関心を持ってもらうことや歩み寄ってもらうことが必要になってくるでしょう」  ゲコノミストも、ノミストと同条件で「焼き鳥店に行きたい」し、「フレンチのフルコースを食べたい」のだ。今後も加速していきそうな「下戸ムーブメント」は、日本経済を大きく変えるかもしれない。 【まんきつ氏】 漫画家。イラストレーター。著書に『湯遊ワンダーランド』(扶桑社)や『まんしゅう家の憂鬱』(集英社)、『ハルモヤさん』(新潮社)など。  自らのアルコール依存症体験を赤裸々につづった『アル中ワンダーランド』は、9月25日に文庫が発売予定。

『アル中ワンダーランド』より

【藤野英人氏】 ゲコノミスト。投資家。レオス・キャピタルワークス代表取締役会長兼社長・CIO。著書に『お金を話そう。』(弘文堂)など
市場拡大[ノンアル]は誰が飲んでいるのか?

藤野英人氏

<取材・文・撮影/櫻井れき> ※週刊SPA!8月4日発売号より
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アル中ワンダーランド

アルコール依存症ゆえの大暴走の日々を綴ったノンフィクション漫画が文庫化