衝撃の冬コミ事実上中止。追い詰められる同人誌即売会に活路はあるのか?

東京五輪の会場使用不可にコロナの追撃

 冬の開催を断念したコミケでは、東京五輪延期により東京ビッグサイトが全館使用できないことと並んで、流行が続いたとした場合に十分な対策が取れないことを挙げている。また、5月の中止ではキャンセル料は免除となったが、今後も同様の措置が取れる確証はない。多くの即売会が、必ず開催できるという確証を持てないのが現状である。  こうした状況の中でも、いくつかの即売会は、考えつく限りの対策を実施した上で開削を告知している。対策の方法は様々だ。マスクや消毒の徹底を呼びかけるのは当然だが、行列は感覚を1メートル以上あけるとか、不特定多数が手に取る見本を置かないようにすることなどを挙げている即売会もある。ただ、この負担は極めて過重だし、東京ビッグサイトで開催されるような極めて多人数が集まる規模になると不可能である。単なる販売のためだけではない、作者と読者が交流する場としての、同人誌即売会はいま危機に瀕しているといえる。  こうした状況を受けて、メディアでは即売会主催者や印刷会社の苦境がたびたび報じられるようになっている。そうした報道は概して収益の減少と業界の危機を語るばかりで、その次の一歩に踏み出すものは少ない。同人誌即売会に限らず5月頃はまだ「コロナが開けたら……」という淡い期待があった。でも、緊急事態宣言後も再び感染者数が増加する中で、この状況は年内どころか数年に渡って続くことが予感されている。つまり、来年も再来年も、これまで参加してきたような同人誌即売会が回帰することはないと覚悟を決めなくてはならなくなっているのだ。

ある古参に聞く、同人誌即売会の活路

 この記事を書くにあたって考えたのは、この未曾有の危機をどう乗り越えていくかということである。主催者や印刷会社に、現在の危機を尋ねてお茶を濁す記事ではあまりに凡庸だと思った。  それを尋ねるに値する人物は誰かと考えて、ある人物のことを思い出した。自分の知りうる限り、もっとも古くからコミケに参加していて、ほとんど欠席したことがない人物である。いや、本来なら「○○さんに話を聞いた」として記事が始まるのだが、本人から「自分の名前を出す必要はないと思う」と、強く固辞された。なるほど、当人の名前がでると古くから同人誌の世界に関わっている人として、発言が別の意味を持ってしまうかも知れない。そう思って、そこは食い下がることなく、話を聞くことにした。そして、出てきたのが、この文章の冒頭に記した言葉であった。  今SNSを眺めていたりしてみると、冬のコミケまで中止になった状況には、大きな話が目立つように見える。開催ごとに数十万の人間が集まるということや、そこで動く金額の規模に触れて、その巨大な「業界」を、どうやって維持していくべきかといったような話である。でも、この人物……文章を円滑に進めるために仮にYさんとしておこう……は、違った。どんなに大きな同人誌即売会でも、まだ小さな会場に数百人が集まる程度だった時代を知るYさんは、どうやってこの文化を守るかの具体的な策を提示しているのだ。
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「同人誌」の原点に立ち戻ること
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